瞼で返事をするまで

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「瑞穂さん、私がやるから座っててちょうだい」 ここのところ、姑はしっかりしている。 身ごもった私を気遣うという意識が働き、痴呆もなりを潜めていた。 「俺もやるから」と、文也が私の手から包丁を横取る。 掃除に洗濯、料理まで私から奪い取っていくんだ。 「まだ大丈夫だって。逆に動かないとダメなんだから」 「いや、でもダメ」 「病院の先生が言ってるの」 「けど、俺は父親だから」 変なところで張り合って、譲らない。 子どもができたと伝えたとき、文也が流した涙には嘘偽りがないように思う。それからはさらに拍車がかかって、今からいいパパを目指している。 この調子なら、いいお父さんになるのだろう。 気がつけば、収まるところに全てが収まったのか。 もし私があのまま、裕太が待つ海に行っていたら? 文也の子を押しつけ、押しつけたことに私はずっと苦しむだろう。 私が居なければ、姑も症状も加速してしまうに違いない。 裕太だって、芳恵が亡くなった自責の念にかられるはず。 色んなものを犠牲にし、それらに目をつぶって生きていく人生は、本当に幸せなのだろうか?好きという気持ちさえあれば、なにも気にならなくなるのか? 今、私は文也を好きではない。 触られたくもないし、絶対に許せないだろう。 ただ…。
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