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ただ、色んな悲しみや苦しみが時間とともに薄れていくように、ずっとてっぺんで怒り続けることは不可能だった。
時折、得も言われぬ怒りが湧き起こってくるものの、長くは続かない。疲れてしまうからだ。
それよりは、この緩やかな時間の流れに身を任せたほうが、気が楽なのか…?
やがて子どもが生まれたら、怒っている暇もないかもしれない。
「さ、触ってもいい?」
いつも遠慮がちに尋ねてくる文也がなんだか哀れで、私は黙って頷いた。
私たちがどんな関係であろうが、私が文也への愛情を失っていようが、この子は私たちの子なんだ。
世の中の夫婦が、子どもがいるから離婚できないという気持ちが、少しだけ分かったような気がする。
そうやってまた、許す許さないに関わらず、新しい形で夫婦が出来上がっていくのか。
「俺、育休を取るよ」
赤ん坊の服やオモチャを、今から馬鹿みたいに買い込んでくる、かつて不倫をしていた夫。そんなもので私の信頼は取り戻せないけれど、良いパパになろうとしている姿は、見ていて悪い気はしない。
この人は、良いお父さんになるだろう。
私も、良いお母さんになる自信はある。
それなら、良い妻には?
ううん、もう良妻になる必要はないんじゃないか?
逆に肩の力を抜けば、うまくやっていける?
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