不倫だけは、絶対に

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えっ、浮気? 「土日も仕事なんて、浮気に決まってるじゃん?」 「ちょっと久美、飲み過ぎだって」 翔子がワイングラスを取り上げようとするけど、まだ一杯目のワインが半分以上、グラスに残っている。 「だって、あんなにカッコいいんだしさぁ」 「あんた、いい加減にしなよ」 語気がきつくなった翔子に、久美が肩をすぼめた。 30を過ぎて未だに独身の久美は、既婚組の私たちを妬むことも多い。 「瑞穂たちは、うちとは違うんだから」 そう言うと、ワインをあおって翔子が愚痴り始めるのもいつもの流れだ。 「うちなんて、結婚した途端に人が変わったようになってさ。家事も子育ても私がやるのは当たり前。私だってパートしてるのに、それも1年しないうちに1回目の浮気発覚で、殺してやろうかと思ったわよ」 「なんで離婚しなかったのよ?」 久美が尋ねると間髪入れずに「悔しいじゃない!」と次第にヒートアップしていく。 「旦那を寝取られたなんて、腹が立って腹が立って。その時は泣いて喚いて別れさせたけど、それからも浮気を繰り返すあいつにはもう、怒りより情けなさしか感じない」 会えば聞かされる夫婦の修羅場は、私にはとうてい想像できなかった。 「でも翔子の旦那さん、そんな風に見えないのに」 「久美、あんたも覚えときなさい。男はみんな浮気するようにできてるんだから」 「じゃ、文也さんも?」 薄っすら微笑む久美は、どこか楽しそうだった。
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