星のお菓子

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地面が揺れると、そんなに広くない防空壕の天井からぱらぱらと土が頭の上に落ちてきた。 ずしん……ずしん……遠いのか近いのか、雷様より大きな音が抑えている筈の耳の中に飛び込んでくる。 音がするたびに地面が揺れ、天井から土が落ち……体の内から外へ弾ける様な、心臓か胃袋を掴まれて振り回されるような感覚がした。 怖い……気持ちが悪い……私は目と耳を抑えていた手を放して隣にいる母の顔を見た。母の視線はすぐそこにあった。 「良子、怖い?」 「うん……。」 母の問いに私は多分泣いていたのだろう、曇った視界の先いる母の姿にそう答えた。 父が白木の箱の中に入って帰ってきたその日、私の町はアメリカ軍の攻撃を受けた。 そっと、周りを見回すと隣組で作った小さな防空壕の中にはか細いランプの灯の中に何人かの家族がいた。皆それぞれ肩を抱き寄せ合い、固まっていた。 そっと母の手が私の肩を抱いた。 「母ちゃん、父ちゃんは?」 持ち出し袋だけを膝の上に抱えた母にそう呟くと母は薄暗い豪の中でも分かる様な優しいいつもの微笑みで私のかをを見た。 「あんな石ころ父ちゃんじゃない。それにあのお気楽極楽な父ちゃんがそう簡単に死ぬはずがない。」 白木の箱には父の遺骨は入っておらず、代わりに石ころが何個か詰めてあった。母は絶対にお父さんの死を信じてはいなかった。 また、大きな音がして地面が揺れた。私は学校で教わった様に目を抑え、耳を塞いだ。 「山葉や鈴木の工場を狙っているんだな。」 「飛行機の発動機やら作ってるからかねえ。」 少し離れた所から隣家のおじいさんとおばさんの声がした。 私はまた胃袋を掴まれるような感覚に襲われ、ぎゅっと母の体にしがみついた。 「良子ちゃん。」 不意に母の声が聞こえ、母がそっと私の手を取りその掌に何かを転がした。 「星の……お菓子……。」 「うん、一緒に帰ってきたお父さんの荷物の中に入ってた。」 私はその星の形をしたお菓子を口に運んだ。星のお菓子……金平糖は口の中でふわっと溶けた。 久しぶり口に入った甘未で私は一瞬だけ怖さを忘れた。口の中で星のお菓子を転がす……。 懐かしい味、星が好きだと言った私にお父さんが必ず買ってくれた大好きな味。 「良子が好きだったのを覚えていたんだね、あの人は。」 母はそう言うと、小さな紙袋の中から更に何粒かを私の掌において、自分も一つ口にした。 「もう少しで終るから頑張ろう。」 「うん。」 私は母の言葉に頷いて、再び聞こえてきた雷様の様な音を聞くまいと、目を塞いで耳を覆った。
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