「非」日常

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「犯人は『日常を壊したくて犯行に及んだ』と供述しております」  日常を壊したかった、か。  髪をブラシで整えながら、テレビから流れたアナウンスを反芻した。  そんな理由で人生を棒に振るヤツがいるのか、と不思議に思う。  家族は離れていく。友人もいなくなる。ましてやそんな自分を受け入れてくれる恋人などいるはずがない。「日常を壊した」者の末路とはそんな感じだろう。  ただ、非日常が欲しい気持ちは解らなくもない。  空がどんよりと曇っている日は、もし巨大な浮遊生物が空を泳いできたら、なんて妄想する。  バスが宙に浮いて目的地までひとっ飛びしたらどんなにラクだろう、と理想を思い描いたこともある。  もし駅前に通り魔が現れたら、と自分の想像に身震いすることもあった。その時は巻き込まれないようにすぐ物陰に隠れるか、人通りの多い道まで逃げることにする。ヒトゴロシがいる、と叫ぼうか。警察を呼んで、と助けを求めようか。  そんな想像が自分の中で現実味を帯びてくると、家を出る時刻がやってきた。
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