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ひととき
高校生になり、母との距離はもっともっと遠く離れた。
俺は勉強勉強で…
高校生にもなればバイトをしたり、友達と遊んだり。
母も相変わらず仕事で本当に会う回数が減った。
ご飯だってあんなに毎日一緒に食べていたのにバイトや遊びで帰りが遅くなると母は先に寝ていることが多くなった。
それでもご飯はかかさず作って置いてくれている。
今日は煮物に具沢山の豚汁。
ありがたい。
今お互い忙しい中、母を感じることのできる唯一の繋がりと言っても過言ではない。
寂しい。
なんてこの年で言うものでもないし、恥ずかしいから決して言わないが、やっぱりちょっと物足りなさはある。
昔は本当にうっとおしいくらい俺にひっついていたのに、今では顔を合わせること自体滅多にない。
少しだけ昔のことを思い出しながら冷めたご飯を温め、小さな灯りを灯して母の作ってくれたご飯を食べる。
「あら。帰ったの?ぼっちゃんは遅くまでご苦労さまね」
おどけながら母が話しかけてきた。
「てっきり寝たのかと思った」
ご飯を食べながら母を見る。
夜は既に10時を過ぎていた。
多忙の母にとって10時は遅い。
「いやー喉乾いちゃってさ?よしよしちゃんと飯食ってるな。まだまだあるから食え食え。毎日綺麗に茶碗まで洗ってくれてるからちゃんと食べてるの分かるんだけどさ?ちゃんと飯食ってるの見れて安心したわ。こうやって話すのも久しぶりだもんね?元気か?」
とお茶を飲みながら俺の向かい側に座って笑顔でこっちを見る母の顔はちょっと疲れ気味だ。
「母さんこそ。早く寝なよ?疲れてるんだろ?もう歳なんだから…無理するなよ」
「歳は余計。あんたのためさ。どうってことないよ。私はいいんだよ。あんただよあんた。毎日よく頑張ってるじゃん偉い!こんなことしかできない母ちゃんですまんよ」
と、飯食ってる俺の頭をぐちゃぐちゃに撫で回す
「飯食ってるんだけど…いつまでも子供扱いしないでくれよ」
「私の半分も生きてないがきんちょが何言ってんだよ。ほらほら食ったんなら風呂はいって寝ろ?残ったおかず適当に弁当に茶碗はそこに置いておく!いつもありがとうね?」
そう言って食べ終わった皿を片付ける母は嬉しそうだ。
俺からしたらこんなちょっとしたことで喜ぶ母を不思議に思うこともあるが、俺もちょっと嬉しい。
母との会話はやっぱり元気がでる。
本当に久しぶりで…
こういう時間作らないとなと改めて思った。
「なあ母さん」
「何?風呂あがったら暖かいお茶入れてあげるから早く入ってきな?」
茶碗を洗っている母の背に向かって「たまには…いいよなこういうの。久しぶりってのもあるけど…」と呟くと振り返った母の顔はとても照れくさそうで…
心底嬉しそうな顔をしていた。
そんな俺もちょっと照れくさい。
さっさと風呂に入って一緒にお茶を飲む。
ほっとするひと時に普段の疲れも癒された。
母も久しぶりに話すからかとても楽しそうだ。
貴重な母との時間もあと少しかもしれないなと思いながら母の話をゆっくりと聞いた。
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