2人が本棚に入れています
本棚に追加
アレックスがたしなめるも、ジュニアは画面を見つめたまま指を止めずに答えるだけだった。そして、寂しそうな声色で続けた。
「でもやっぱり、愛するグレープの需要が失われているのに、呑気にワインを飲む気にはなれないんだよ」
「それはたしかに、そうだが……」
父は思わず返す言葉に詰まった。
近年、世界中でグレープの需要が落ち込んだのは紛れもない事実だ。世界有数の生産地、ここカリフォルニアでグレープ農園を営む立場としては耳が痛い。
「そうはいっても、日本みたいに需要に変化のない国もあるじゃないか。気を張り詰めすぎるのもよくない。お前はあと数分で成人となる誕生日を迎えるのだ。ワインが飲めるようになる日を、私もお前も、幼いころから待ち焦がれていただろう」
なおも食い下がると、ジュニアがピタッと指を止めて、画面からアレックスに視線を移した。鋭く冷たい目つきはバーのアイスピックに似ている。
最初のコメントを投稿しよう!