第四抄 後編

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「!!」 茜ははっと目を覚ました。その声音を聞いた瞬間、非現実から現実へと舞い戻ってきたような感覚が全身を満たす。この時は憑き物が落ちたというような感覚でもあった。本当に憑き物が落ちてくればいいのだが……。 外はまだ明るい。 茜はのろのろと障子へ近づいた。開こうとして、わずかに躊躇う。 先程の夢で、沼御前が向こう側から話しかけてきたのが蘇る。 (ううん、大丈夫。この声は知ってる) 淡い恐怖を振り払い、気を取り直して外側にいる者へ返事をした。 「すみません。開ける前に、つかぬことをお聞きしますが……凪さんですよね?」 『ん?そうだけど……あら、これはかなり参ってるようだねぇ』 外側から再び声がして茜は肩をゆらした。向こうで凪がどんな表情を浮かべているか、容易に想像がつき、茜は眉間にしわを寄せた。 のらりくらりとしてる彼は、きっと楽し気に微笑んでいる。 どんな顔をして対応すればいいのか分からない。しばらくまごまごしていると、こちらの葛藤が伝わったのか、また笑い声が聞こえた。 『僕の悪い癖でごめんね。ねえ、ちゃんと喜ぶものだと思うから、一目見るつもりで開けてくれないかい?』 「え……何でしょうか――」 そっと障子を開けて、茜は言葉を呑み込み、放心した。 きらきらした青い小花が目に飛び込んできたのだ。 青い小花を大量に抱えた凪は「どう?綺麗でしょう?」とにこやかに言う。 透き通った美貌と綺麗な花の組み合わせが絵になっていて、茜は思わず凝視した。 『何にもない部屋って寂しくない?花瓶に挿すなら、僕に任せてよ』 凪はそう言って、花の束をぼすっと茜に渡す。 「わ、いい香り……!沈香(じんこう)っぽい香りがします。あれ、意外と重いですね?花瓶に挿すのお願いしてもいいですか?」 『くすっ……これは妖の世界でしか手に入れられない花で、ここまで喜んでくれたなら良かった。いいよ、僕にお任せあれ』 腕の中にある花を見て喜ぶ茜に、凪はふ、と吐息のような笑みを見せた。本性を知っていなければ本当にすっきりとした目鼻立ちの美男だ。 .
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