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(もう時間の感覚が分からなくなってる。皆が元気付けようとしてくれてるのは嬉しいけど、心も体もボロボロ。此処に来たって事は、終わりが近づいてる事を知らせに来たって事だよね?そうだよね?)
(そうだと言って!お願い……!!)
満身創痍である茜はふらつきながらも、吉報を信じて歩み寄った。
それを見かねた凪が小さくため息をついて、今度は紳士的に優しく手を引く。
茜は、意識がぼうっとする程に陥っていた為、不埒な行為をしてた凪を振りほどく気になれず素直に頼る。
戸を開けると、茜を「良いと言うまで出るな」と閉じ込めて、しばらく顔を出さなかった彼がいた。
顔はきりりと整い、闇に吸い込まれる様な漆黒の瞳と艶やかな髪。
涼やかさの中に、色香を隠し持つ男を、正面から見つめる。
ゆらぎそうな意識の状態で、「狂……」と彼の名を呼ぼうとして、茜はぎょっとした。
彼は金色の菊模様が華やかな黒地の羽織をしている。
――ところが、血痕が所々についていた。
いかにも激しい争いをしてきましたといわんばかりの凄惨な有様。しかし、彼に怪我は無さそうだ。
「こんな姿を見せて、すまない。腐れ外道達に絡まれてしまった」
静けさをまとう姿勢でありながら、漆黒の瞳は争いの余韻にとっぷりと浸ったままの苛烈な眼差しだった。どうしたものか。
戸惑う茜をよそに、狂は渋面を作り、凪をけん制する。
「此の世のモノではない珍しい花を渡すだけ、と言ったお前を信じる訳ないだろう。用が済んだなら、先に斑尾達の所に行け」
『はーい。こんな狭い部屋に数日も居させるの、女の子に酷な事をしたねぇ。仏頂面してないで、労ってやんなさいよ』
凪はそう吐き捨てると、茜を軽く狂の方へ押しやった。そして自分は主人の言う通りにさっさと外に出て、庭先に降りる。
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