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が、凪は唐突に振り向いた。
深刻な表情は消え去っており、勝ち誇ったような微笑が代わりに浮かんでいる。
『狂さん』
「何だ、その顔は」
『来るのが5分遅かったら、茜ちゃんは……沼御前に勾引かされる前に、僕の色気に落ちてたよ。初々しい反応だったな』
「は……?」
狂は耳を疑うというような表情を見せた。
とんでもない発言をした!!
「ああっ凪さん、その言葉はもうっ!」
「のらりくらりした凪に翻弄されてばかりで我慢できない!」という気持ちで、庭ぎりぎりに近づいた茜。直後、凪が腕を伸ばしてきた。
すっと縁に片足を上げ、身を乗り出して茜の頬に触れる。
『――あかね』
「あ……!?」
いつも「茜ちゃん」と呼ばれてる凪から、名を呼び捨てされ、彼女は息が止まった。
『うかうかしてると、君を狙う妖が最果てまで連れ去ってしまうよ。二度と後戻りはできない』
鼻先が触れる距離で、妖しく微笑まれる。茜が突き飛ばす前に凪はさっと身を引く。
「――」
驚いてる狂をちらっと見やる。
やけに挑発的な薄笑いを浮かべると、凪は羽織をひるがえしてどこかへ去った。
重い沈黙ののち、狂が我に返った様子で茜を見る。
「……茜」
物言いたげに眉根を寄せたが、すぐにかぶりを振った。凪の言動に突っ込んでもしかたないと意識を切り替えたようだ。
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