第四抄 後編

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が、凪は唐突に振り向いた。 深刻な表情は消え去っており、勝ち誇ったような微笑が代わりに浮かんでいる。 『狂さん』 「何だ、その顔は」 『来るのが5分遅かったら、茜ちゃんは……沼御前に勾引かされる前に、僕の色気に落ちてたよ。初々しい反応だったな』 「は……?」 狂は耳を疑うというような表情を見せた。 とんでもない発言をした!! 「ああっ凪さん、その言葉はもうっ!」 「のらりくらりした凪に翻弄されてばかりで我慢できない!」という気持ちで、庭ぎりぎりに近づいた茜。直後、凪が腕を伸ばしてきた。 すっと縁に片足を上げ、身を乗り出して茜の頬に触れる。 『――あかね』 「あ……!?」 いつも「茜ちゃん」と呼ばれてる凪から、名を呼び捨てされ、彼女は息が止まった。 『うかうかしてると、君を狙う妖が最果てまで連れ去ってしまうよ。二度と後戻りはできない』 鼻先が触れる距離で、妖しく微笑まれる。茜が突き飛ばす前に凪はさっと身を引く。 「――」 驚いてる狂をちらっと見やる。 やけに挑発的な薄笑いを浮かべると、凪は羽織をひるがえしてどこかへ去った。 重い沈黙ののち、狂が我に返った様子で茜を見る。 「……茜」 物言いたげに眉根を寄せたが、すぐにかぶりを振った。凪の言動に突っ込んでもしかたないと意識を切り替えたようだ。 .
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