第四抄 後編

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「狂兄ちゃん、言われた通りに二人を連れて来たけど何かあったの……?」 『若様。アイツ……寝る前にも水を欲しがってたし、顔色も優れない感じだったぞ』 『……茜様が心配なので手短にお願い致します。話が終わったら、おかわりの水を持っていきます』 千里、レン、斑尾……全員が茜に見せるにこやかな笑顔とは打って変わって、不安げな声音である。どうやら今夜見張ってた二人は、千里に誘われて庵を離れたらしい。 次に、凪が低く言う。 『――狂さんと一緒に、他の妖なら欲しがる物を色々と用意してみたけど交渉は駄目だった。それほど沼御前は茜ちゃんに執着しているねぇ……』 『はあ……駄目でしたか』 『チッ。正当な手段で沼御前の祟りを祓うのは難しいのか』 妖たちの話に、茜は胸の前で指先を握りこみ、息を詰める。 (交渉したんだ。なのに駄目……) 新たな事実を知ってうろたえる間、黙りこんでた狂が言葉を発した。 「交渉が駄目で、引き渡さないままでは、沼御前の逆鱗に触れてこの町が水没しかねない。ならば……あいつが欲しがってる生贄を差し出す事にしようと思う。お前達も協力しろ」 「え、狂兄ちゃん!?」 千里が悲鳴にも似た驚き声をあげた。レンと斑尾も彼の発言を受けて、ざわざわと動揺を隠しきれてない。 聞き耳を立てていた茜も「ええっ」と声をあげそうになった。 『……いいね、それでいこうじゃない』 ただ一人、凪が安堵したようにフフッと笑っている。 茜は狂の言葉がもたらした衝撃の強さに、頭が追い付かない。 (沼御前が欲しがってる生贄って……待って。それってどうみても、私だよね?狂は私に「また迎えに来る」と言った。桜を見る約束も……もしかして彼の世に連れていく為の口実!?) 足の力がなくなる感覚におそわれて、立っていられなくなり、茜は側の樹幹にすがりついた。 樹幹にすがる手が、小刻みに震えている。 ぽつ。 ぽつ、ぽつ。 ぱら、ぱら、ぱら――。 いつの間にか雨が降った。 『それで?狂さん、どういう風に引き渡すの?』 「……凪、お前は今すぐ打ち掛けを準備しろ。状況を把握しきれてない三人には一から流れを説明する」 彼等はぼそぼそと謀を練る。 茜はこれ以上居るのが辛くなり、数歩後ずさりした後に急いで庵に戻った。彼女はもう喉の渇きなどどうでもよくなっていた。 室内に飛び込み、布団に潜り込んで、身を丸める。 .
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