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ぱら、ぱら、ぱら――。
雨音が続いている。
布団の中で茜は懸命に目を閉じる。
早く寝て意識を手放さないと、泣いてしまいそうだったのだ。
彼女の心臓が、どくどくと脈打っている。
(狂が絶対、何とかしてくれると思ってた。今までお互いに危ない時は助け合ってきたから、今回の事でも絶対に助けてくれると信じてた……さっきは私に優しくて嬉しかったのに。ああ。これが私の思い上がり、というのか)
――まだ街は危険な状態ではない。
だが、もしかするとこれから危険が訪れるかもしれない。
茜は彼の性格を思い返したのだ。狂は、感情を殺せる。
何かを成し遂げる為には手段を選ばない、冷酷な一面もあるのだ。
茜は奥歯を嚙みしめる。彼に近付けば、きっと多くの苦痛を味わう。
それは学校の帰り道に目撃した時から、彼が纏う雰囲気で分かっていた事なのに……。
ぱら、ぱら――。
布団の中でじっとしていると、聞こえる音が変わった。
ぴしゃん――。ぴしゃん。
ぺちゃっ。ぺたっ。ずっ……ぺたっ。
独特な足音が聞こえる。
布団から恐る恐る顔を出せば、彼女はハッと状況を理解した。
室内の茜へ訴えるように、手形があちこちに浮かんでは消える。
『――愛しい姫』
また、沼御前がやって来たのだ。
茜はとっさに両手で口を押えた。
『……どこじゃ。居場所が分からぬ。姫だけをずっと探し求めておるのに、一度も反応してくれぬ』
悲しげに言われて、ずきんと心が痛む。
それでも息を止め続けていたのだが、
我慢できなくなって、はぁっ、と手を口から離し、声を漏らしてしまった。知らぬうちに泣いてしまったようで、茜は息苦しくなる。
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