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茜はぎこちなく頷きながら、目を伏せて記憶をたどる。思考がまとまらない。
何を、誰を信じればいいのか?
狂は硬い表情のまま呟く。
「夢と現(ウツツ)の怖さに引っ張られて、ずいぶん覇気が無いな……。俺達がそばにいる事を忘れないでくれ」
夢……。
――先ほどまで夢を見ていたのか。ひどく恐ろしい夢だった。狂が、沼御前に茜を差し出すと言っていた。
ショックのあまりに泣いていたところを、沼御前が来て、諦めて出ていこうとした……。
「なんだ夢か……」と弱弱しく笑おうとして、茜は表情を消す。
寝る前は一緒にいたはずの獣の妖(アヤカシ)、白い猫又の姿が無い。
気まぐれ気質で姿を潜めてるだけなのか?それとも、外に出かけたのか?彼女が見た夢では、猫又は茜を導くかのように外へ出かけた。彼女の服が濡れていたり、足が汚れてる事は無いが……
「……ねえ、雨が降ってた?狂の服、少し濡れてるよ」
「ん?ああ。先ほど降ってきて、今は本降りだ。他の皆は明日の夜に向けて準備を始めているところだ。明日、お前にはお面を被ってもらう」
ああ。あの話は、夢ではなかったのか――。
茜は何もかも諦観した。
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