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「そうでしたか、うーんどうしましょう」
それはそうだろう。いつの間にか、影からぬるりと黒い腕が伸びて男の足首を掴んでいる。よっぽどの執念なのか、二本の手でがっちりと。
正体不明でうかつな手出しは出来ないが、災厄を広げない為には……と茜は心の中で頷いた。
「ちょっと目を瞑って、深呼吸してみませんか?」
「え……」
「リラックスですよ、リラックス!ほら!」
男子学生は困惑したようだが、それでも目を閉じた。彼が深呼吸をし始めた時に、茜は「退け」と小さく呟き、躊躇いもせずに踵で――影を強く踏みにじった。
刹那、バチッと音をたてて足元に火花が散る。
「あっ……!?」
影はするりと離れて消えた。同時に彼の身体がカクンと数歩つんのめる。小さな音がした、と怪訝な目を茜に向けたが、彼女は何事もない顔をしているので、不思議そうに辺りを見回す。
「あ、あの……助けてくれてありがとうござ……」
ガシャーーーン!!!
彼がお辞儀をしようと頭を下げたのと同時に、彼の背後に植木鉢が落ちた。
それが落ちた場所は、さっきまで彼が黒い影に足止めされていた場所だ。茜が祓わなかったら、頭に直撃してかなりの重症を負ったかもしれない。
(え!?何だろう?今の……違和感)
もう一つ、何かが聞こえたような気がした。ハッと息を呑む茜のすぐそばで男子学生は悲鳴をあげる。何かに怯える様に声を荒げている。
「わあああ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
ざわざわ。
彼の悲鳴を聞いて住宅路の人が、現場を一目見ようと集まって人が集まってくる。人々の喧騒に重なって、暮れた街の風景はいっそう騒々しかった――……。
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