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チリン。
喫茶店のドアベルが鳴った。
入り口を背にして座っていた茜はふり返る。
雰囲気は大学生か、専門学校の学生くらいか。
楚楚(ソソ)とした女性がこちらに目を止めて微笑む。
今日は白いブラウスに、ベージュのロングスカート。淡いトーンで統一して、上品な装いだ。
黒曜石のような瞳に、さらさらと揺れる髪。
スタイルも顔立ちも整っていると、シンプルな服でさえ様になるので羨ましい…じゃなくて。
茜は目を丸くした。
「えっ。康子姉さん……?」
「ふふ、狂ちゃんじゃなくてごめんね」
待ち合わせ場所に来たのは、「狗御家」の次期当主である狗御 狂(クオン キョウ)……ではなく姉の康子(ヤスコ)であった。
彼女は茜の目の前にすとん、と腰を下ろす。
注文に来たウエイトレスへ「紅茶を下さい」と頼んだ後に、再び向かい合った。
「狂ちゃんの事ね。たまには、これくらい休んでもらいたいのよ。この話は私と茜ちゃん二人で解決しちゃわない?」
笑いかけてくる康子に、茜はちょっと目を見張る。
彼女の話によると。
――朝、起きた康子が庭へ出向いてみたら、狂がレンと剣道の稽古をしていたらしい。
二人には何を隠そうと、所々に包帯が巻かれており、まだ完治していないのだ。
「駄目だよ、まだ駄目ーっ!」と千里が慌てふためくが、彼らは全然聞く耳を持たなかったそうだ。
「狂ちゃん、レン君。必死に看病した私と千ちゃんの気持ちを無駄にするのね?ちゃんと休むのも大事なのよ」と康子がにっこりと笑いかけたら収まったらしい。
この時、男子達がその笑顔に静かになったのは……多分、康子が怖かったからではないか。
(いつもニコニコしてる人が怒るとすっごい怖いんだよね。康子姉さんの背後にうっすらと般若が浮かび上がってたんだろうな)
話を聞いていた茜もゾッと想像できた。ともかく、無茶するあいつらが悪いというのは分かった。
「……よし。ここは女子二人でも解決しちゃいましょう!」
やる気満々の茜は身を乗り出した。
さきほど助けた男の出来事、彼から聞いた事を細かく話り出す――。
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