第一抄

7/35

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/209ページ
翌日。 校舎の一階、渡り廊下で茜はふと足をとめた。 (あ、れ……何で?) 立ち止まった彼女の横を他の女子学生が通り過ぎていく。 「さっきの体育、疲れたー」 「そうよねー。あの先生さ、朝からまじで暑苦しいし!午前中から汗臭いの気分下がるー」 「やだ、待って。今の愚痴を聞かれちゃ駄目よっ!お疲れぇーっ」 最後は媚びを売るような猫撫で声。 彼女達の賑やかな愚痴を聞きながら、茜は廊下の先に佇んでる人影を見た。 静かに研ぎ澄ました空気をまとう男。 この学校で「孤高のプリンス」と影で呼ばれてる狗御 狂(クオン キョウ)だ。 相変わらず、涼しい顔で身じろぎもせず、窓の外を見ている。 (何を見てるの……?) 不思議に思って視線を追うと、そこに一人の女子生徒の姿があった。中庭のベンチに、ひっそりと俯きがちに腰を降ろしている。 今は束の間の休み時間だから中庭に誰がいようがおかしくは無い。 外見的には、これといって目立つところの無い少女である。 眉下まで切り添えられた前髪、長い黒髪を背中辺りまで伸ばしている。飛び抜けて背が高いのでも、小柄であるわけでもない。 失礼だが、地味で平凡な印象を与える女子学生だった。 その学生が何となく、狂がいる方向へゆっくりと目を向ける。 ばちっと二人の視線が合った。彼女はたちまち頬を染めて、あたふたと中庭を走り去る。 何だろう。この構図は。 憧れの彼が自分を見つめてくれたというシチュエーションだ。 「はっ……もしかして狂ってあの子がタイプなの……!?」 「ちょっと、茜。何を呟いてんの?」 その時に後から来たニ、三人のクラスメートが茜の肩を叩いた。 .
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加