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翌日。
校舎の一階、渡り廊下で茜はふと足をとめた。
(あ、れ……何で?)
立ち止まった彼女の横を他の女子学生が通り過ぎていく。
「さっきの体育、疲れたー」
「そうよねー。あの先生さ、朝からまじで暑苦しいし!午前中から汗臭いの気分下がるー」
「やだ、待って。今の愚痴を聞かれちゃ駄目よっ!お疲れぇーっ」
最後は媚びを売るような猫撫で声。
彼女達の賑やかな愚痴を聞きながら、茜は廊下の先に佇んでる人影を見た。
静かに研ぎ澄ました空気をまとう男。
この学校で「孤高のプリンス」と影で呼ばれてる狗御 狂(クオン キョウ)だ。
相変わらず、涼しい顔で身じろぎもせず、窓の外を見ている。
(何を見てるの……?)
不思議に思って視線を追うと、そこに一人の女子生徒の姿があった。中庭のベンチに、ひっそりと俯きがちに腰を降ろしている。
今は束の間の休み時間だから中庭に誰がいようがおかしくは無い。
外見的には、これといって目立つところの無い少女である。
眉下まで切り添えられた前髪、長い黒髪を背中辺りまで伸ばしている。飛び抜けて背が高いのでも、小柄であるわけでもない。
失礼だが、地味で平凡な印象を与える女子学生だった。
その学生が何となく、狂がいる方向へゆっくりと目を向ける。
ばちっと二人の視線が合った。彼女はたちまち頬を染めて、あたふたと中庭を走り去る。
何だろう。この構図は。
憧れの彼が自分を見つめてくれたというシチュエーションだ。
「はっ……もしかして狂ってあの子がタイプなの……!?」
「ちょっと、茜。何を呟いてんの?」
その時に後から来たニ、三人のクラスメートが茜の肩を叩いた。
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