第一抄

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「授業始まっちゃうよ?」 「あっうん、ちょっと独り言出ちゃった」 「うわー茜って本当に変な人だよね」 ふわっとした笑い声に包まれて、茜はちらっと狂に目をやった。 彼は視線を流して、こちらを見ている。 そして、何もなかったように背中を返して立ち去った。 (……俺は全く関係ないっていう顔をしてた。いいわねえ、立ってるだけで周りからちやほやされて) 少しもやっとした茜に、クラスメートの一人が声をひそめた。 「さっきのさぁ、中庭に居たの小夜子(サヨコ)さんだったよね。嫌なもの見ちゃった。茜もあの子に関わらない方がいいよ」 別の二人も、その名前を聞いてわずかに眉をひそめる。 何の事だか分からない茜が尋ねると、彼女達は視線を交わし合った。 さらに声を低める。 「噂のある人よ」という口ぶりだけど、ひどく陰湿なものがちらついてる。 「他の人に言わないでほしいんだけど。あの人、暗いから一時的にグループにからまれてさ……一回、自殺未遂したらしいよ。その続きがあって」 「最近さ、怪我人が出てるって知ってる?その怪我人が全員、その子にからんでたメンバーなんだよねー―」 「うわ、それってやばいじゃん」 茜はこないだ助けた少年を思い出した。 彼は「メンバーと一緒に行動していた」としか言っていない。もし、その噂が本当であれば洒落にならない。 (だけど……さっきの人、変な感じは無かったな。もうちょっと情報を集める必要がありそうね) その時、始業のチャイムが鳴った。 .
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