19.再会(1)

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19.再会(1)

 早馬の騎士の報告を聞いてから、エルは今後の対策を立てるためにすぐさま騎士団に向かった。  帰りは遅くなるだろうから先に寝ているようにと言われたけれど、ベッドに横になっても一向に眠くならない。むしろ目は冴えてくるばかりだ。  私は寝るのを諦め、ベッドから離れて窓に向かう。  月は厚い雲が覆い隠してしまい、外は真っ暗闇だった。鳥や動物たちの声も聞こえない静かな夜。この静けさが、かえって不安を煽ってくる。 「セシル……どうか無事で」  セシルは、もうずっと長く私についてくれていた。明るくて、しっかり者で、よく気の付く大切な侍女。いや、侍女というより、私は彼女を姉のように慕っている。  セシルは私よりも二つ年上で、時には私を厳しく叱ってくれ、また悩みを聞いてくれたりもした。いつも一生懸命私の話に耳を傾けてくれて、私は何でもセシルに話していたし、セシルも私にいろいろな話をしてくれた。だから、リバレイ領までついてきてくれると知った時、私は本当に嬉しかったし、とても心強かった。  でも、そのセシルの乗った馬車が襲われた。馬車まで被害は及ばなかったのだし、第一騎士団が守ってくれているのだから絶対に大丈夫、それは固く信じている。しかし、私の心は申し訳なさでいっぱいだった。  何故なら、襲撃の目的はおそらく私だから。  ここ最近は落ち着いていたものだから、私も少し油断していたかもしれない。この襲撃は、十中八九「聖女」を狙ったものだ。命を取ろうとしていたのか、攫って他国へ売り飛ばそうとしていたのか、そこまではわからないけれど。  私と一緒にいる限り、こういったことは日常茶飯事のように起こり得る。こうやってとばっちりを受けることも、一度や二度では済まない。それでも、セシルは私と一緒にいることを選んでくれた。  セシルもきっと不安だろう。お互いに姿が見えないからこそ、不安でたまらない。  セシル、早くあなたに会いたい。  私はセシルを思いながら、外を眺め続ける。一刻も早く、陽が昇ることを願って──。  *  ようやく陽が昇り、私は着替えを済ませて部屋を出た。窓から第一騎士団が戻ってくるのが見えたのだ。その中には、セシルの乗った馬車もある。  急いで扉を開けた瞬間、私は何かとぶつかった。 「きゃっ!」 「おっと……」  私の身体を抱きとめたのは、エルだった。 「エル!」 「今、第一騎士団の到着を知らせようと思って来たんだが……。レティシア、一睡もしていないだろう?」  エルが、瞳の下あたりに柔く触れる。みっともないので必死に隠したクマは、ここまで近づかれると見事にバレてしまう。 「どうしても眠れなくて」 「そうか。それなら、まずはセシルと再会だな。その後、一眠りするといい」 「エル……」  エルの表情を見て、セシルが無事に到着したのだと思った。張りつめていた糸が切れたように、身体から力が抜けていく。そして、気持ちも緩んでしまい……。 「大丈夫だ、レティシア」 「ホッとしたら……止めたいのに、止まらない」  勝手にポロポロと零れてくる涙。  エルはそれを指で優しく掬い取り、私の目尻に口づける。 「そんな顔を見せたら、セシルが心配するぞ」 「……はい」  私は涙を拭い、エルを見上げて微笑んだ。  そうだ。私が泣いていたら、セシルだって心配させたと気に病むだろう。セシルはそういう人なのだ。
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