35.暴かれる悪事(1)

1/1
前へ
/89ページ
次へ

35.暴かれる悪事(1)

 エルにも手伝ってもらいながら、私はフラムの背から地面に降り立つ。  カミルたちの入った木箱はすでに下ろされており、裁判所に運ばれていた。 「フラム、ご苦労様。五人も乗せて飛ぶのは大変だったでしょう? ごめんなさいね。ありがとう」 「グワォ!」  私の言葉に、フラムが喉を鳴らす。  「これくらい平気だよ」なんて言っているのだろうか。フラムの顔はどことなく得意げに見える。 「フラムもネージュに負けないほど気性が荒いんだが、レティシア相手だと可愛らしいものだな。奴らの気配には薄々勘付いていたようだが、おとなしく乗せてくれてよかった」 「え? フラムは気付いていたんですか?」  エルが魔術を施していたというのに?  エルは小さな溜息をつき、肩を竦める。 「他の二人はともかく、カミルという奴は只者じゃない。簡単に術に屈してくれなくて苦労した。暗殺組織の者でなければ、騎士団にスカウトしたいほどだ。とりあえずおとなしくはなったが、人としての気配は消しきれなかった。フラムが激しく拒否するんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」  そこまで言うのだから、彼はエルを相当手こずらせたのだろう。さすがというか、何というか。  依頼された暗殺は必ず遂行するという残虐性を持ちながら、どこか理知的で。物騒な組織の頭だというのに、何故か粗野な感じはしなくて。……本当に不思議な人だった。  そんな彼らも、今日の裁判でどうなることか。  これまで犯してきた数々の悪事が暴かれ、糾弾されることは必至だ。これまでの罪を考えると、かなり重い刑に処されるに違いない。たぶん……極刑、だろうか。 「グルッ」 「フラム?」  フラムの声で、私は顔を上げる。知らず知らずのうちに俯いていたようだ。  フラムは私をじっと見つめると、ゆっくりと姿勢を低くする。そして、きゅっと目を閉じた。 「やれやれ。フラムも随分甘えん坊になったものだ」  エルは呆れながらも笑っている。  私はフラムの深紅の鱗に触れ、そっと撫でた。 「グゥゥゥ」 「気持ちいいの?」 「グルゥ」  喉を鳴らすフラムに癒される。  これから行われる裁判を思い、気持ちは沈んでいたけれど、フラムのおかげで気を取り直せた。  私が沈んでも仕方ない。彼らは正当に裁かれ、罪を償わなくてはならないのだ。それが例え「死」であったとしても。 「行こう、レティシア」 「……はい」  エルが私の手を取る。  王都・セントラルに到着したばかりの私たちだけれど、ここへ来た一番の目的は、カミルたちの裁判だ。  昨日の時点では、私は裁判には出ない予定だった。家族に一刻も早く元気な顔を見せて、安心させてやれとエルに言われた。  でも、それに異を唱えたのは私だ。実害を被った私だからこそ、この裁判を見届けなければならないと思った。  彼らを庇うつもりなど毛頭ない。けれど、一方的に彼らだけが裁かれることには納得がいかない。だって、彼らが動いたということは、彼らを動かした人間がいるということなのだから。暗殺組織に依頼をした人間も、彼らとともに裁かれるべきだ。  エルも私の気持ちに同調し、最終的には一緒に行こうと言ってくれた。 「グルッ」 「フラム、行ってくるわね。今日は本当にありがとう。ゆっくり休んでね」  私はもう一度フラムの鱗を撫で、エルとともに裁判所へと向かった。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1649人が本棚に入れています
本棚に追加