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 美夏と連絡が取れなくなってから二週間が経った。連絡を取り合う術を奪われてしまった今、俺に出来ることは何一つ無かった。  俺はいつも通り美夏のオフィスへ荷物を配送していた。もちろんそこに美夏の姿はなかった。  美夏は無事だろうか……?俺の中で不安な気持ちがぐるぐる回っていた。  いつもなら、印鑑を持って美夏がやって来る。でも、美夏と会えなくなってからはこのおばちゃんが担当だ。  俺はそれとなく探りを入れてみた。 「あのー、そういえば、いつもの人、最近居ないっすね?」 「あぁ、山根さんね。彼女二週間くらい休んでるのよ。体調崩したみたいで。彼女真面目だからねー、頑張り過ぎたのかも。」  それらしい情報は得られるはずもないと、諦めた。 「あ、そうそう、お兄さん知ってる?その彼女のダンナがね、ウチの副社長なのよー!背が高くてイケメンで。これがまたお似合いの夫婦なのよー!」  おばちゃんはいろいろベラベラと話しだした。もしかしたらこの人、いろいろ教えてくれるかもしれない。そう思った俺はまた探りを入れてみた。 「副社長さんですかー。おいくつなんですか?」 「30代後半かしら。奥さん想いの愛妻家で、ほら、彼女今休んでるから、副社長も休んで、ずっと傍に居て看病してるそうなのよ。」  愛妻家か…。少なくともそれは違うな…。 「へぇー、そうなんですか。副社長さんは仕事休んで大丈夫なんですかね?」 「最近だとリモートとかで在宅勤務出来ちゃうから、自宅に居ながら仕事してるみたいよ。」  旦那さんが美夏に付きっきりだということが分かった。これなら美夏も脱出なんて出来るはずもない。  途方に暮れた俺は、最後にロビーにある受付へと向かった。このオフィスでは、社長や副社長宛のものは、受付に渡すことになっている。 「これ、今日の分です。お願いします。」  俺は小包や封筒を受付嬢に渡した。そしてオフィスを後にしようとしたその時、 「副社長宛のもの、超溜まってるんだけど。このままで大丈夫なのかな…?」  二人の受付嬢が呟いた。俺は急いで回れ右をし、受付へ戻った。 「あの…、副社長って、ここずっと不在なんですか?」 「あ、はい。二週間くらいお休みしてます。」  二週間…。美夏が部屋に閉じ込められてからずっとなんだ…。 「荷物、大丈夫なんですかね?急ぎのものとかあったりしませんかね?」 「多分あると思うんですよね…。とりあえず秘書さんに渡しておいてるんですけど、かなり溜まってるはずなんです。」  俺はチャンスが来たと感じた。そして閃いた。 「もし良かったら、副社長さんのご自宅までお届けしましょうか?」  受付嬢は秘書に確認を取り始めた。これで許可が出れば、  俺は美夏に会える。  心の中で強く祈りながら、受付嬢の返答を待った。 「あの!配送屋さん!」  受付嬢が俺を呼んだ。俺は走って受付へ向かった。結果は一体、どっちなんだ……? 「あの、さっきの件なんですが……、  副社長が、是非お願いしますとのことでした。」  俺は心の中でガッツポーズをした。  受付嬢から副社長の住所を教えてもらった。荷物を抱え、俺は美夏の元へ向かうことになった。 「あ、ちょっと!」  受付嬢に呼び止められた。 「副社長、現在リモート会議中だそうで、出来れば会議が終わってから届けた方がいいかもしれませんよ?」  そうか、ちょうど今は会議中なのか。だったらなおさら好都合。旦那さんが出られないのなら、もしかしたら美夏が出てくるかもしれない。  俺はすぐに美夏の居るマンションへ向かった。会議が終わる前に、何としてでも美夏に会わなければ……。  教えてもらったマンションへ着いた。  力強くインターホンを押した。その指は少し震えていた。  しばらくしても反応がない。不在なのか?そんなはずはないのだが…。  もう一度インターホンを押した。これで誰も出なければ今日は諦めようと決めた。 「……はい。」  か細い声で出たのは、  間違いなく美夏だった。  背後に旦那さんがいるかもしれない。まずここは普通に対応してみる。 「どうもー。さくら運送です。お荷物お届けに参りました。」 「……蒼ちゃん?」  美夏が俺の名を呼んだ。  俺は慌てて、人差し指を唇にあて、シッと美夏に合図した。 「美夏、バレないように自然に接して。いい?」 「うん、分かった。」  エントランスの扉が開き、俺は美夏の居る部屋に向かった。  玄関の扉が開いた。  そこには、美夏の姿があった。 「美夏……。大丈夫だった?」  俺は声を潜めて美夏に問い掛けた。美夏は黙って頷いた。しかし、美夏の左頬が若干青く、腫れているようにも見えた。 「今は旦那さんは?」 「リモート会議中。だから私に、玄関に出ろって…。」 「美夏、俺、こうやって定期的に荷物届けに来るから。必ず助ける。だから美夏、もう少し待ってて。」  俺は美夏に荷物を手渡し、サインをもらった。  美夏の目には涙が溢れていた。俺は、美夏の震える手を握り、美夏を落ち着かせた。 「また来るよ。次は何か良い方法考えてくるから。」  美夏は黙って頷いた。 「どうもー!ありがとうございましたー!」  俺は、奥の部屋に居る旦那さんに聞こえるようにわざと大きな声で言い、部屋を後にした。  見事、美夏と会うことに成功した。次は美夏を救う方法を考えなければ……。
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