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 愛梨に電話をしようとスマホを手に取った瞬間、スマホに着信があった。  啓太からだった。久しぶりの電話だった。 「もしもし、蒼佑?久しぶりだなー。元気か?」 「ああ…、まあ…。」 「どうしたどうしたー?何かあったのか?それよりさ、俺、お前に報告があるんだよ!」  啓太の声はとても明るく弾んでいた。俺とは180°違っていた。 「俺さ、結婚するんだ!」  啓太は、高校時代のバイトで一緒だった咲子さんとあれから付き合うことになり、そのままゴールインとなったのだ。  「お、おめでとう!良かったな!すげーよ、お前たち。」 「だろ?俺、一途だから。」  俺と啓太は二人で笑った。 「でさ、咲子が、美夏さんと連絡取りたいのに全然繋がらないって言ってんだけど、お前何か知ってる?知ってる訳ないか…。」  俺は、啓太に全てを話す決心をした。 「俺、今からお前ん家行っていいか?少し話したい。」  啓太は快諾し、俺は啓太の家に向かうことにした。向かう道中、愛梨に電話した。 「愛梨?さっきはごめん。俺が悪かった。今、啓太から電話きて、これから啓太ん家行くことになった。遅くならないようにするから。ごめんな。」 「啓太君の所…?そう…、分かった。」  愛梨の声が明らかに弱々しかった。俺は少し気になった。  啓太の家に着き、俺は全てを話した。  美夏と再開したこと、美夏と不倫関係にあること、美夏がDVを受け監禁されていること、包み隠さず話し尽くした。 「ごめんな啓太。せっかく結婚のおめでたい報告だったのに、こんな…。スマン…。」 「いや、話してくれて助かったよ。咲子心配してたからさ。でもお前、これからどーすんだよ…。」 「来週、美夏を連れて逃げようと思ってる。」 「逃げるって…、どこへ?愛梨ちゃんどーすんだよ…。」  俺は何も言い返せなかった。 「確かに美夏さんのこと心配なのは分かるけど、そこはちゃんとしないと!けじめつけてからだろ!」  俺は啓太に叱られた。幼馴染みの仲良しの啓太に、こんなに真剣に叱られたのは初めてだった。  啓太の言葉で、俺は覚悟を決めた。  愛梨との関係を終わらせようと。  そして、美夏を助ける。  啓太の家を後にし、自宅へ戻った。  愛梨はソファーに一人座り、テレビを見ていた。その後ろ姿はどことなく小さく、寂しげに見えた。 「愛梨…、ただいま。さっきはごめんな。」  愛梨は振り返ると、満面の笑みで俺の元へやって来た。  そして、  俺に抱きついた。 「ごめんね。」  俺は愛梨に別れを切り出せなくなった。  何やってんだよ、俺…。  俺は、俺が情けなかった。  結局その後も愛梨には別れを切り出せずにいた。  ついに美夏のマンションへ向かい、美夏を連れ出す日を迎えた。  俺はこの日は仕事を休んでいた。しかしそれを愛梨には伝えずにいた。そして…。 「愛梨、今日さ、ちょっと遅くなるかも。夜間指定の配送、佐々木さんから代わってって頼まれてさ。」  嘘をついた。俺は仕事服を身に纏い、家を出た。  美夏のマンションへ着いた。力強くインターホンを押した。 「……はい。」  美夏が出た。 「美夏、俺。迎えに来た。」  エントランスの扉が開き、俺は美夏の部屋へ辿り着いた。  玄関の扉が開くと、おめかしをした美夏が登場した。俺はキュンとして、思わず美夏を抱き締めた。 「美夏、行こう。俺と一緒にここから逃げよう。」  俺は美夏の手を取り、二人で走り出した。  エレベーターに乗り込み、俺はまた美夏を抱き締め、キスを交わした。エレベーターが止まるまでずっと俺たちは濃厚なキスをし続けた。  エレベーターの扉が開き、俺たちは手を繋いで飛び出した。 「美夏、そいつとどこへ行くつもりだ?」  そこに居たのは、  美夏の旦那さんだった。 「えっ……、どうしてここに?」 「出張は嘘。俺が不在と知ったら、そいつが現れると思ってね。まんまと引っ掛かったようだな。バカの考えることは単純だ。」  旦那さんは俺を見て嘲笑った。 「あなたと美夏がそういう関係なのは気付いていました。ウチに荷物を届けに来る時、必ず私が会議中の時間帯を狙って来ますもんね。」  まさか気付かれていたとは…。誤算だった。 「悪いことはしません。今すぐ美夏と別れてください。私の目の前で美夏に言ってやってください。もう二度と会わない、って。」  もしこのまま旦那さんの言う通りにしたら…、美夏はこの後旦那さんにまた殴られるのだろう。  絶対に、そうはさせない。 「美夏、行こう!」  俺は美夏の手を取り、走ってその場を逃れた。  しかし、当然ながら旦那さんは俺たちを追ってきた。  旦那さんは美夏を捕らえ、美夏と俺の繋いだ手は引き離された。すると旦那さんは俺の目の前で美夏を殴り飛ばした。更に、倒れ込んだ美夏を、旦那さんは思いっ切り蹴った。 「美夏!」  俺が美夏の元へ行こうとすると、旦那さんは俺の肩を鷲掴みし、俺を殴った。  俺はすぐに立ち上がり、旦那さんを殴った。それから俺たちは取っ組み合いになったが、旦那さんは俺よりも力が強く、圧倒的に優勢だった。  旦那さんは、倒れ込んだ俺に馬乗りになり、何度も何度も俺を殴った。もうフラフラだった。しかし、俺は美夏を助けたい一心だった。  もう、こうなったら、最終手段に出るしかない…。  俺は護身用のナイフを出した。もはや、これを使うしか術はないと思った。  旦那さんが最後のとどめの一発を仕留めようとした次の瞬間 ───────────  俺は刺してしまった。  鈍い感触、そして、なま温かい液が体からこぼれ出るのを感じた。  ついに、俺はやってしまった……。  その場に倒れ込んだ姿を見ると、  それは、  美夏だった。
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