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賀陽さんは俺より六つ年上の三十歳らしい。
見た目は二十代にしか見えないのに。それでいて独身で恋人もいない。
「意外すぎます。」
「そうかな。アルファなんてそんなものだろ。番に選べるのはオメガ性の人達だけ。俺は特に番を持ってオメガ性の子を愛したいと思ってるからね。」
「あ、愛したい……?」
「君の事だよ。あ、それよりも発情期が起きるのかな。抑制剤、大量に持っていたけど……。」
ハッとして賀陽さんが持っていた俺の薬を受け取り慌てて飲んだ。
これで急に発情して迷惑をかけることは無いはず……。朝昼晩と飲んでいないし、初めてだからわからないけど。
「飲まなくてもいいのに」
「賀陽さんに迷惑を掛けたくないので」
「迷惑じゃないよ。」
頭を撫でられてホワホワする。
人にこんな風に撫でられることは滅多になくて、気持ちよさに目がとろんとしてしまう。
「あと賀陽さんって止めない?凪でいいよ。」
「凪さん……?」
「うん。俺も真樹でいいかな。」
「はい」
抱き締められて、凪さんの肩に頬をつける。
「咄嗟に家に連れてきてしまったけど、真樹は今日、もう何の用事もない?」
「……あ、やばい!」
自分の持ち物からスマートフォンを取り出して画面を見ると、不在着信とメールが大量に届いていて顔面を蒼白させる。
慌てて電話をしようとして、手が止まった。
なんて言えばいいんだ。
オメガになったショックで出れませんでした?
……いやいや、言えるはずが無い。
困惑しているとスマートフォンが震えて、上司から着信が来ていた。
「真樹?」
「あ……ど、どうしよう……」
スマートフォンの画面を覗き込んだ凪さんは、眉間に皺を寄せて俺の手からそれを奪い、通話ボタンを押し、耳に当てると俺から離れていった。
凪さんが上司と話している。
とても真剣だ。でも、何を言っているんだろう。
電話を終えたのか、凪さんは笑顔で俺の傍に戻ってきてスマートフォンを返してくる。
「真樹は暫く仕事を休むって伝えた。だから心配せずにゆっくり休もう。」
「え……」
「大丈夫」
頬を撫でられると不安な気持ちが薄れ、その手に頬を擦り寄せる。
無意識にとった自分の行動に驚いて、慌てて離れた。
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