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「凪さん、これ……俺、これ欲しい……」
「……」
「中いっぱいに……」
無意識にポツポツ言葉を零していた。
それに気がついて咄嗟に口を手で覆う。
俺はアルファだったんだぞ。
それなのに、自分を抱いてくれって言うなんて。
「……なに、言ってるんだろ……」
泣きそうになりながら、でも彼を気持ちよくしてあげたくて手を伸ばしてそれに触れ、ゆっくり動かす。
もっとまともにならないと。
早く薬か凪さんの精液を摂取しないと……。
「真樹」
「はい……んっ!」
背中に手が回ってキスをされ、体を抱き寄せられる。
自分のペニスを俺のそれと一緒に握って、ゆっくり手を動かし始めた彼に驚いてしまう。
「むっ、ぁ、ふ……っは……!」
「何も考えなくていい」
震える体を抑えられ、ほとんど同時に射精する。
凪さんは汚れた手を俺の口元に持ってきて、謝りながら指を突っ込んできた。
「これで少しでも熱が治まればいいんだけど」
「ん、甘い……」
指をちゅぱちゅぱと舐めて、ベッドに寝転がる。
隣に横になった彼は俺に服を着せると、ぎゅっと強く抱き締めて「休憩」と言い、休み始めた。
***
俺は後天性のオメガ。
アルファとして生きてきたある日、発情期になったオメガの女性を助けた結果、性別がオメガになってしまった。
そんな経緯があって通常と違うからか、もしくは付き合ってくれた彼と相性が良かったのか、発情期は三日で落ち着いた。
「凪さん。俺はこれからどうすればいいですか。俺は自分の人生を貴方に渡しました。基本的に貴方の指示に従おうかなと思います。……あ、ただまだ暫くは番にはなれないので……。」
「わかってる。それに、俺の指示に従うなんて事しなくていい。真樹がやりたいようにして欲しい。ただ提案してもいいなら、これからもここで一緒に暮らしたいと思ってる。仕事も、できるなら辞めてほしいかな。無理にとは言わないけど……」
「一緒に暮らすことは俺もそうしたいと思ってます。だって……俺、凪さんのこと好きだし。それにやっぱり凪さんが俺を助けてくれたので、貴方の思うようにしたい。仕事は……辞めた方がいいんでしょうか。」
俺が仕事を辞めるということは、凪さんが俺を養うということ。
それはあまりにも負担がかかると思う。
「あ……でも、オメガって申告すればどちらにせよ、結局クビになりますかね……。」
「どうして?」
「うちの会社でオメガの人に会ったことがありません。もしかしたらいるのかもしれないけど、別室かもしれないし、採ってない可能性もあるし……。」
「……オメガ性の人は希少だから、そもそも採用試験を受けてないのかもしれない。……俺はそう信じたいけどね。」
頷いたけど、自分の言葉でショックを受けて俯く。
……うん?何で凪さんが『そもそも採用試験を受けてないのかも』という考えを信じたいんだろう。
「何で凪さんはそう信じたいの?」
「それはまあ、俺の親父が代表の企業だからね。」
「……うん?」
「自分の会社の社長の名前は言える?」
「……賀陽……信英……」
「そう。それが俺の親父」
開いた口が塞がらない。
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