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定型文の挨拶をすると、お互い肩の力を抜いて椅子に座った。
「大学の頃みたいに遊びたいよなぁ。」
「本当だよ、全く。」
砕けた調子で話すのは、三森が大学の同級生だから。
別のところに就職したけど、お互いに担当になってはや数ヶ月。最初こそ真面目にしていたミーティングも、息抜きの場のようになっている。
「じゃあ、今回もこれでいい感じ?」
「うん。それでよろしく」
珈琲を飲んで、落ち着いていると、三森が外を見て「あ」と声を零した。
気になって三森の視線の先を見ると、チョーカーをした女性が道端で倒れてしまっているのが見えた。
「珍しい。オメガだな。発情期か?……っておいおい、あれまずいだろ。」
「チッ……」
女性に男が群がっていく。
どいつもこいつもフェロモンに充てられているみたいだ。
立ち上がり、三森が止めるのを気にせずに店を出て女性に群がる男達を追い払う。
「抑制剤は?」
「っ、かば、ん……っ」
女性の落とした鞄の中から抑制剤を取り出す。錠剤しかないことに苛立ちを感じながら、三森の方を見て「水!」と叫ぶと店員からそれを貰いこっちまでやってきた。
「ありがとう。離れとけ」
「わ、悪い……」
三森はベータで、抑制剤なんて飲んでいない。だからこのフェロモンに耐性がない筈。
女性に抑制剤を飲ませ、道の隅に移動した。
「病院行くか?」
「い、いえ、大丈夫、です……」
「……なら、あんたのフェロモンが治まるまで一緒にいる。」
三森にリュックを持ってきてもらい、ミーティングはちょうど終わった所だったので先に帰ってもらった。
自分の持っている抑制剤を一応の為に飲んで、女性が落ち着くのを待った。
抑制剤の効き出した女性をタクシーに突っ込み、家に帰ってもらう。
自分から甘い匂いがする気がする。
女性のフェロモンが移ったか。
まだ午前中で申し訳ないけど、午後休を貰って家に帰ることにした。
すぐに風呂に入って匂いを落とす。
「あー……もう……」
風呂から出てスマートフォンを見ると、新木さんから災難だったねとメッセージが来ていた。
返事する気になれずに髪を乾かしてソファーに寝転ぶ。
疲れたのか、少し体が怠い気もするし熱っぽい感じがする。あのオメガの女性のせいとはいえ、午後休を取れたのは少し有難いかも。
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