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「うん。真樹が反省しているのはわかってるからあんまり怒らないけど、次同じようなことがあったら、本気で怒っちゃうからね。」
淡々と冷静に叱られている今も、怒らせてしまったショックも相まって怖いのに、本気で怒るって……これ以上があるのか。
ああ、もしかして。
「……本気って……叩く……?」
「はあ!?」
「ヒッ!」
目を見開いて立ち上がった凪さんは、そのまま俺を見下ろして数秒固まったあと、力無くソファーに座り直した。
学生時代、勉強で成績があまり良くないと父親に叩かれた事がある。
母さんには呆れた顔をされた。
食事の時間は沈黙。食器が擦れる音が時々聞こえて、何の音もない。
暫くは家に帰るのが嫌だった。重たい空気にただ耐えるのは辛かった。
思い出してシュンとしていると、凪さんに優しく名前を呼ばれる。
「あのね……そんなことしないよ。叩いたって何の解決にもならないし。」
「……?」
「言葉で伝えたらわかるだろ。」
言葉で伝えるなんて、そんなことはなかった。
ただ痛みと重たい空気があって、二度とそれを味わいたくなかったから、怒られたあとは寝る間も惜しんで勉強に勤しんだことがある。
「……そういうものですか?」
「……真樹がどう育ってきたかはわからないけど、俺は怒った時に暴力に走る人は嫌だな。」
困った顔でそういった彼に、なるほど、確かにそうだと頷く。
俺は叩かれるのが嫌だったから。
「本気で怒るって言ったのは、しっかりお話するよってこと。」
「わかりました」
「……真樹には嫌な思い出があるんだね。」
「……叩かれるなんて普通でしたよ。」
苦笑しながらそう言うと、凪さんは俺を包むように抱きしめてくれた。
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