鬼雨

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いつ発情期になってもおかしくないから、人目の少ない道を歩いて家に帰る。 ふらっと空を見上げれば、視界にビルの屋上が写った。 勝手に足がそちらに向いて、気付けば階段を上り屋上に出ていた。 ──無理だ。オメガなんて。 二十四年間、アルファとして生きてきたのに、これからオメガになるなんて。 誰に相談すればいい?両親は俺と同じで、オメガに対しての偏見がある。 息子がオメガになっただなんて聞いたら、発狂するに違いない。 終わりだ。もう、生きられない。 屋上の柵を跨ぎ、ぼんやりと下を見る。 人は居ない。今なら誰も巻き込まない。 死にたいわけじゃない。 ただ、オメガになった俺はこれから先生きられないと思う。 それならもう早いとこ、未来を閉ざしたい。 批判されるだけの未来なんて耐えられない。 足を一歩踏み出し、ゾワッと恐ろしい感覚を感じたのと同時に、強く腕を掴まれた。 「っ!」 「見つけた」 「うわっ!」 そのまま抱き寄せられ、柵の内側に連れ戻される。 俺を抱き締める男は、首筋にスリスリと顔を寄せてきた。 「やめろ……っ!気持ち悪いっ!離せ!」 「ううん、離さない。」 男に背中を撫でられ、落ち着くようにとポンポン軽く叩かれると、急に気持ちが楽になった。 泣き出したいくらい穏やかで、優しい。 そして急激に眠気に襲われる。 「ね、むい……」 「いいよ。眠って」 体に力が入らなくなって、全体重を彼に預ける。 瞼は持ち上げる事も出来ず、抵抗する時間も無く目を閉じた。 ■ 目を覚ますと知らない部屋にいた。 体を起こし辺りを見渡すと、シックで落ち着いた色合いの家具があって、程よく空調が効いている。クリーム色のカーテンの隙間から赤い光漏れていた。 時計を見れば短針は六を指していて、午後の六時だとわかる。 唯一あるドアに近付き、静かに開けると廊下があって、左はもう一つ部屋があって、その先は行き止まりで右側の奥にはドアと、右に少し進んだ先に枝分かれしてある左の廊下の先には玄関があった。 とりあえず、ここはどこで誰の家なのかを知る為に、右奥のドアを開ける。 そこは広いリビングで、深い茶色のソファーには一人の男性が座っていた。 「あ、あのー……」
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