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声を掛けると振り返った彼は、端正な顔をしていた。黒髪に程よく焼けた肌。二重で切れ長の目は少し威圧感もあるように思える。筋の通った高い鼻に、薄い唇。
俺も中々顔は整っていると思うけど、この人には惨敗だ。
「あ、おはよう。」
「……おはようございます……」
「体調はどう?」
「大丈夫です。……あの、ここは……?それと貴方は……?」
入口で突っ立っている俺を、彼はわざわざ立ち上がって腕を取りソファーに座らせてくれた。
身長が高い。俺より十センチ……いや、十五センチはある。
「俺は賀陽凪。ごめんね、勝手に持ち物見たんだけど、君は堂山真樹君で合ってる?」
「合ってます。」
「死のうとしてたね」
「……すみません」
悪い事をしたと思って謝ると、賀陽さんは微笑んで首を振った。
「怒ったわけじゃないから謝らないで。」
「あの……でも何で、あそこにいたんですか……?あと、見つけたって言ってたと思うんですけど……」
「ああ、それは匂いがしたから。フェロモンのいい匂い。昨日も同じ匂いがしてあまりにも俺の好きな匂いだったから思わず探した。行き着いた先で堂山君が飛び降りようとしてたから……」
俯く俺の手を、賀陽さんが優しく握る。
「堂山君はオメガだね?」
「……ついさっき、知りました。」
「さっき?……ああ、後天性か。昨日オメガの女性を助けてたけど、それのせいかな。」
「見てたんですか?」
「うん。たまたま車で通り掛かった時に見たんだよ。多分あれは堂山君だったと思う。オメガは中々見かけないしね。」
握られている手が温かい。
甘えたくなるような体温だ。
「堂山君はオメガになったから死のうとしたの?」
「……はい。うちの家は……まあ、俺自身もなんですけど、偏見が強くて。それに二十四年間アルファとして生きてきたのに、これからオメガとして生きていくことなんて無理です。だから、早々にリタイアしようと思いまして。」
「潔いいね」
「苦しい事なんて味わいたくないですからね。」
そう言うと、彼は俺の手を握る力を強くした。
そのまま飛び降りるのを止められた時のように抱き寄せられる。
「リタイアするくらいなら、俺にちょうだい。」
「ちょうだい?何を……?」
「堂山さんの人生をちょうだい。」
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