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俺とみずほ先輩は、話題のドラマの主演たちと並んでモニターを見ている。
モニターにはサイドアングルから映されるふたりの憂いた表情。あたかも恋の終わりを匂わせているような憂いがある。そして奥には俺たちふたりが映っている。
みずほ先輩は鼻の頭に白いクリームをつけて怒りだした。それからクリームを拭き取られ、顔を赤らめて慌てふためく。
「こんな映像、使えるわけないじゃない!」
「まあまあ、次も見てみましょう」
桜木さんが鈴音さんをなだめる。
次のテイクではみずほ先輩が俺に向かってクリームを噴き出すシーンが映っていた。困り顔の俺とは対照的に顔を真っ赤にして悶絶している。しかし、このひとはほんとうによく赤くなる。
「こっちもろくな映像じゃないわ。――それで桜木さんは何が言いたいの? 何もなければ私、帰りますね」
鈴音さんはモニターから視線を切ってきびすを返す。
桜木さんが優しげな声で鈴音さんの背中に語り掛ける。
「彼女の笑顔、鈴音さんの若い頃にそっくりだ」
鈴音さんが、えっ、と声をあげて振り向く。桜木さんは鈴音さんの顔を見てかすかに笑みを浮かべる。
「高校生の頃の鈴音さん、表情が豊かで、モニターの中でもすごく映えていました。僕が芸能界に憧れたのは、あなたの演技を見て感銘を受けたからなんです」
「えっ、そうなの……?」
鈴音さんの顔から怒りが一瞬にして引いてゆく。俺は互いの表情を目で追っていた。
「だからこのドラマの撮影、僕はすごく楽しみにしていたんです。でも――」
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