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「くれぐれも品のないことはやめてよね。たとえば試食をがっつくとか」
「がっつくのがだめなんすね。じゃあちょっとはいいんっすね」
「えっ、まあちょっとなら……」
一瞬、ためらいが見えた。その反応に俺は納得する。
「みずほ先輩、さてはつまみ食いしてるんですね」
「何言ってるのよ! なんでも節度と挑戦が大事なのよ!」
「あっ、やっぱり食ってますね。しかもいろんなのをちょこちょこと」
「記事にするには実体験が必須なのよ! かつき君も記事書くんだからそれくらいの試食は覚悟しなさい!」
みずほ先輩は顔を赤らめ、むきになって言い返す。
「はいじゃあ、今度の広報誌は『みずほ先輩のつまみ食い放浪記』って題名にしますね」
「センスは認めるけど個人的事情でNGよ! あと、経費があるからおみやげを買って地域に貢献すること!」
「ははーん、それが明日のおやつになるんですね」
「過酷な執筆を乗り切るには希望が必要なのよ!」
言い合っていると、ふと、誰かの視線を感じた。みずほ先輩も気づいたようで同時に目を向ける。
サングラスをかけたヒゲ面の男がベンチでふんぞり返り俺たちを見ていた。
いい歳に見えるが、長袖ストライプのTシャツとジーンズというラフな姿。両手の親指と人差し指でファインダーを作り俺たちを捉えてニヤリと笑う。
「君たちいいねぇ~、それこそ青春の構図だよぉー」
「……」
俺はみずほ先輩とアイコンタクトをする。
――怪しい人っすね、静かに立ち去りましょう。
――触らぬ神に祟りなし、それが賢明ね。
俺たちは気づかぬふりをして静々とその場を去っていった。
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