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それから順々に店を巡ってゆく。
最奥まで進むと芝生の広場があった。カメラが置かれており、私服姿のスタッフが十数人、せわしなく動き回っている。一部にはロープが張られていた。その手前には人だかりができている。
「なんでしょうね、この見物人は」
「きっと撮影現場ね。記事の材料になるかもしれないわ、行ってみましょう」
ネタの匂いを嗅ぎつけ、みずほ先輩の瞳は爛々としている。
腰をかがめて人ごみの隙間を縫ってゆく。前列に出ると、芝生にたたずむ綺麗な身なりの男女が目に入った。
「うわぁ、あれ、桜木淳と鈴音美沙じゃない!」
みずほ先輩の表情が光を灯したように明るくなる。俺は名前を聞いてはじめて気づいた。
最近デビューした人気急上昇中の若手俳優と、天才子役と言われて十余年の女優の取り合わせ。
「っていうことは、『エターナルメッセージ』の撮影じゃない!」
――エターナルメッセージ。
たしか次シーズンの注目ドラマで、放送前だというのに話題になっている恋愛ミステリー。
「こんな場面、すごいラッキーね!」
みずほ先輩は瞳を二倍にして俺を見上げる。
けれど俺は女優さんの表情が気になって仕方ない。どうも浮かない顔をしているのだ。
「これから撮影ですから、もう少し離れて下さい。できるだけ音を立てないようにお願いします」
数名のスタッフが観衆を制した。指示に従い後ずさりする。
ふと見ると女優の鈴音さんがスタッフを手招きしている。若いスタッフが駆け寄る。鈴音さんはスタッフに何か言い、スタッフはひたすら頭を下げた。
何かと思い俺は耳をすまして声を拾う。自慢の地獄耳の発動だ。
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