みずほ先輩と俺、広報誌取材で女優さんに怒られる

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「どうしてこの私がいるのに、エキストラが遅刻してるのよ!」 「誠にすみません、人身事故で電車が遅れているようで……」 「まったく、私が過密スケジュールなの、わかってるでしょ?」 鈴音さんは不機嫌な顔でベンチに腰を下ろす。桜木さんも隣に腰をすえた。 すると鈴音さんはハンドバッグをふたりの間にどかっと置いて足を組んだ。 「だいたい私、こんな新参者の俳優と組みたくなんかなかったんだから!」 横柄な態度で目に余る。俳優の桜木さんは何も言わずやり過ごしたようだが、スタッフはその態度にたじたじの様子だ。 そこでひとりの男が間に入る。あの奇妙な雰囲気のおじさんだった。 「まあまあ鈴音さん、いたらない点は俺がどうにかしますから」 「そうですか、監督がそう言うなら」 みずほ先輩と俺は顔を見合わせた。 「みずほ先輩、あのひと監督さんみたいっす」 「やっぱり。クリエイターのひとって、なんか独特の雰囲気があるよね」 「あれ? 怪しい男だと思っていませんでした?」 「そっ、そんなことないわよ!」 みずほ先輩はぷいっとそっぽを向いた。俺は深入りせず視線を撮影現場に戻す。 すると監督と目が合った。俺たちに気づいたようだ。 突然、右腕を上げてこちらを指差し、一直線に歩み寄ってきた。 「いたいたいた! そこの君と隣の彼女ォ!」 「おっ、俺たちっすか⁉」 「そうそう、そこのお似合いのおふたりさん。頼みがあるんだけどさぁ」 「なになに、かつき君」 「もっ、もしや……」 驚く俺たちに向かい、監督はぎらぎらした笑顔でこう告げた。 「ちょっとだけカップルの役やってくれない⁉ 君らなら地で行けばいいからさ」
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