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「テイクワン、スタート!」
スレートの軽快な音が響く。遠方の固定カメラは芸能人のおふたりさんに向けられ、ショルダーカメラのカメラマンがサイドアングルを捉える。
シリアスな場面のようで、ベンチに並んだふたりは思いつめた表情。放送時にはバラードが差し込まれそうだ。
みずほ先輩はつま先で俺のすねをとんとんと小突く。
「気にしちゃ駄目よ。パフェに全神経を集中して」
「いや、カップルの役なんですから、あーんとかするのがお約束っしょ」
クリームをすくって目の前に差し出すと、みずほ先輩はびくりと身をそらした。
「ばっ、ばかっ! そんなことできるわけないでしょ! だいたい女子に気安いのはいろいろ誤解を招くのよ。自重しなさい!」
みずほ先輩はあわてて自分のパフェをすくい上げ口にかき込む。
顔をあげると、鼻の頭にはでかでかとクリームが載っていた。
「あ――」
気づいていないようだが、言うべきか受け流すべきか。けれど撮影中だけにNGの原因となったら申し訳ない。
俺は意を決して伝えることにした。
「みずほ先輩って、ほんと鼻につくひとっすね」
みずほ先輩の目は見開かれ顔が紅潮する。しだいに怒り顔になった。
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