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「テイクツー、スタート!」
ふたたびカメラが回る。桜木さんは気にも留めていないようだったが、鈴音さんはひどく不機嫌な顔をしていて相当やばい。いくら一般市民とはいえこれ以上の粗相は許されない。
けれどカップルらしい演技をしなければ。
話題を探すべく辺りを見回すと、少し離れたところに着ぐるみの集団がいた。さまざまな植物や果物を模した姿をしている。
「みずほ先輩、ゆるキャラ集団がいますよ」
「ほんとね、なにかイベントでもやってるのかしら」
「最近増えましたよね、なし崩し的に」
みずほ先輩の表情が一瞬、固まった。
「――こほん。かつき君、ちょっと聞くけど『なし崩し』ってどういう意味かわかる?」
突然、理知的っぽい質問をしてきた。真面目なカップルを演じているのだろうか。
「当然知ってます」
「うやむやにするってことじゃないのよ」
「わかってますって」
「じゃあほんとうの意味はなーんだ」
真顔のみずほ先輩はパフェをほおばりながら顔を近づけた。
「なし崩し――それはふなっしーのポジションを崩しにかかること。ねばーる君が最有力!」
マジレスした瞬間、みずほ先輩は口に含んだクリームを勢いよく噴き出した。俺の顔面に直撃する。
「ぶへっ、みずほ先輩ひどっ!」
「あは、ごめ、かっ、かつき君……、それ面白すぎるよぉ~!」
みずほ先輩はお腹を抱えて大笑い。いったい何がツボにはまったのだろうか。
かたや俺はクリームまみれで笑えない状態だ。
そこでまたもや監督の雄たけびが響く。
「カットだコノヤロー!」
――しまった!
「おめーら面白すぎるんだよぉ! NG集に組み込んでやるから覚悟しとけよぉぉぉ!」
監督は笑いながらこめかみに青筋を立てている。みずほ先輩はいまだに声を殺して悶絶していた。
「すっ、すみません!」
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