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すると鈴音さんがツカツカと早足で歩み寄ってきた。やばい、表情から察するにひどくおかんむりのようだ。
「あなたたち、いい加減にしてよね!」
とたんに場の空気が重々しくなった。
みずほ先輩もまずいと思ったのか、テーブルに突っ伏したまま表情が硬直する。
観客たちも空気を察したようで辺りは静まり返った。
ああ、撮影を台無しにしてしまった。俺、高校生なりたてにして人生最大のピンチ。
鈴音さんはみずほ先輩の目前に仁王立ちになり厳しい視線で見下ろす。
「なんで私がこの代理エキストラの小娘に足引っ張られなくちゃならないのよ! 悪いけど私、このドラマ降りるわ。こんな小娘に馬鹿にされたんじゃやってられないから!」
あまりの剣幕に背筋が凍りつく。みずほ先輩は泣きそうな顔をしていた。
けれどみずほ先輩の自然な喜怒哀楽に罪なんてあるはずがない。
俺は意を決し、ふたりの間に割って入る。
「申し訳ありません、でもこのひとは全然悪くないです。くだらないこと言った俺が全部悪いんです。だから文句は俺が全身全霊をもって受け止めます!」
テーブルの上に手をついてひれ伏す。けれど鈴音さんの怒りが収まることはない。
「ふーん、じゃあドラマがおじゃんになる損失は、あなたの親御さんに賠償請求してよろしいのかしら」
「ぐっ、それは……」
そのとき桜木さんが「あの~、すみませんが」と間の抜けた声をあげた。鈴音さんは睨むように振り返る。
「なによ桜木さん!」
「せっかくなので撮影のカット、見てみませんか?」
「なんでよ、どうせNGに決まってるじゃない!」
「いや、僕に免じて一度だけ再確認してもらいたいんです」
「再確認……?」
「はい、どうしても鈴音さんに見てほしい場面なんです」
「……わかったわよ」
鈴音さんは渋々と承諾した。
そこにどんな意図があるのか俺にはわからなかったが、監督だけは意味ありげな笑みを浮かべていた。
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