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「もう少ししてから、警察を呼んでちょうだい。」
顔の皮膚のあらゆる隙間に、土のようなファンデーションを押し込みながら彼女はそういった。
「なんで、今すぐ自分で探しに行かないのさ。」
不自然な黒い目元でじっと睨まれるのを背中に感じた。
「なんで?なんで私が探しに行かないといけないのよ。」
「だって」
だって、お母さんだから、でしょ。似合わないビビットカラーの唇で薄ら笑う。まるで、彼女が世の中のことを全て知っていて、僕は何も分かっていないとでも言いたげに。
「でもね、お母さんだからって、私を世間一般のお母さん像に当てはめないでほしいわ。お母さんだって忙しいし、それに、あの子が出ていったのはお母さんのせいじゃない。あの子が、自分の意志で、それを願って、出ていったの。分かる?」
自由意志、と自慢げに呟いて、彼女は白髪交じりの髪に巻き付けていたカーラークリップを慎重に外した。
「あんただって、おにいちゃんでしょ?だったら、おにいちゃんらしく、可愛い妹を探しに行ったらどうなの。」
そういって、何時に帰るか、どこに何をしに行くのかも言わず、彼女はすっかり日の暮れた街へ向かっていった。
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