1,おねがい、私の専属アイドルになって欲しいの!

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1,おねがい、私の専属アイドルになって欲しいの!

 色んな方面から聞こえてくるライトな音楽、キラキラと光るライト、行き交う人が来ている三色の可愛い制服。  施設はどれも新しくて綺麗、掃除だって完璧に行き届いていてそこらのショッピングモールとは比べ物にならない。 そして、ようやく16歳の誕生日を迎えた私は大きく息を吸った。別に空気は外とは変わらないはずなのに、どこか美味しく感じるのはきっと気分が上がっているせい。  思わず持ちあがる口角と軽くなる足取り。むき出しの膝と太ももを撫でるスカートは周りのみんなと同じで、ずっと憧れていたもの。 「ついに……ついに私も、アイドルシティに来れたんだ…。」   思わずそんな独り言が漏れても仕方ないと思うのだ。だって、だって、ずっと焦がれ続けていた場所に来れたのだから。  今日は初めてだし、中を歩きつつプロデュースさせてくれるアイドルコースの子を探そうと決めていた。  何人かで連れ立って中を歩く女の子たちの胸元で光るリボンの色は大体が赤か黒で、私が入る余地はないんだと知らされる。  全国最大級のアイドル育成事務所、アイドルシティ。ここではなんと、アイドルだけでなくプロデューサーやヘアメイクアップアーティストなんかのアイドルをサポートする側の人間の育成にも同時に力を入れているのだ。  根っからのアイドルオタク、裏側に携わりたいと思っていた私がプロデューサーコースを志願したのは必然のことだと思う。  でも、設備の充実の仕方と月額500円という驚きのコストパフォーマンスから、本気で芸能界を目指す人の入所は年々減少、娯楽目的で訪れる高校生や大学生が増えてきている。  そこで運営側がふるいをかけようと、近年いくつかルールが制定された。  その中に、『プロデューサーは入所一週間以内に専属アイドルを見つけて申請することが出来なければ即退所』というもの、『アイドルは月に二回はライブをすること』が義務付けられた。  その結果、人が減るかと思いきや友達数人で固まって入所する人が増加してしまい、本気で目指す子達がどんどん肩身が狭い思いをすることになったのだ。その中の一人が、たったさっき入所が決まった私なんだけど。  入所手続きのときに受け取ったパンフレットを見ながら、歓喜と不安の入り交ざった溜息を吐いた。せっかく憧れのプロデューサーになれると思っていたのに、早々で退所の危機なんて。  どこを見てもカフェエリアで買った飲み物を持った高校生や大学生ばかり。もとよりアイドルになりたい子っていうのは開所当時に入所しているし、才能があった子は既にテレビの下で笑顔を届けている。  近年の娯楽施設化を見て、真面目に入ってくるような子なんている訳がないのは否定がしきれないけれど、それでも諦めないのが私の長所…だと信じたい。    周りをきょろきょろと見渡しながら、広い施設内を歩いていると身体にドン、という衝撃が走った。  えっ?と声を上げる前に私の体はしりもちをついている。そこに来てようやく、前を歩いていた人とぶつかってしまったことに気付く。  こっちが周りを見てなかったせいだというのは明らかで、慌てて謝らなければと立ち上がる。 「えっと…その、大丈夫、ですか?」  コミュ障を大いに発揮しながらぶつかってしまった彼女に手を差し伸べた。赤色のサイドテールの彼女は前髪が長いのと、俯いているせいで表情がよく見えない。 「触んないで。子供(ガキ)じゃないんだから一人で立てるっての。」  溜息を吐き、そんな荒々しい口調で私の手を払って立ち上がる。 「す、すみません…私が前を見てなかったばっかりに…。」 「本当だよ。周り見えてなさすぎ。他人の迷惑とか考えないの?」  不機嫌そうな─というか実際不機嫌な彼女は、とても可愛かった。  口が悪くて不良みたいな割に、大きくて丸い目からは童顔な印象を受ける。背も私より低いから160あるかないかくらい。  そんな彼女が悪ぶっているのだと思うと何だか面白くて笑えて来てしまう。 「何笑ってんの?気味悪いんだけど。とにかく前見て歩きなね。」  いぶかしげに私を見て歩き出そうとする彼女。そのとき、黒色の制服で輝くリボンの色を見て息を呑んだ。  アイドルコースであることを示す赤色。考える間もなく、立ち去ろうとする彼女の手をぱっと掴んでいた。 「おねがい、私の専属アイドルになって欲しいの!」
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