Lesson.11

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Lesson.11

 普段二人で外出することはほとんどなかった。  美咲が買い物は長考し、紗月が買い物をするときは即決するため中々価値観がかみ合わない。  いつも一緒に過ごすときはその価値観の違いは気にしないし、それも関係性の一つだろうと思っているのだが貴重な休日に外出するとなれば話は別だ。  つまるところ、基本的に休日は別々で過ごしている。もちろん夏祭りや文化祭なんかのとき、それからお互いの家でのお泊り会や合同でキャンプに行くときなんかは別だが。  紗月がいつも行くのは近所の小さな店を中心に何度も行くのに対し、美咲はいつも遠くの大きな店に時折行くというスタイルでそういうところも真逆だ。  今回は美咲に誘われているため美咲行きつけの店に行くことになっていた。  つまり普段の行動範囲から出る範囲の場所で流石に不安になるが、まぁ美咲の隣だし大丈夫だろうという楽観があった。  隣を歩く美咲にはチラリチラリと色々な人に視線を向けられている。制服時よりも可愛らしさが倍増したモデル顔向けの美少女なのだから当然と言えば当然だろう。  それは誰よりも長い時間を過ごしてきたと自負している紗月からすると、可愛い顔立ちをしているのも振り返ってしまうのも分かる。が、彼女にはもっともっと魅力があるのだ、と大声で叫び出したくなるような気持ちと、自分だけが知っていればいいなと思う気持ちが混ざり合っていた。  繋いだままの手は二人の間でふらりふらりと力なく揺れていて、紗月の何とも言えない感情を示しているようだった。 「ねえ美咲、今日はどこに行くの?」  美咲に行先を任せると言って紗月は具体的にどこに行くのかは聞いていない。 「ふふ、ちょっと遠いところなんだけどね、大きいショッピングモールなの。」  白い息を吐きだしながら、柔らかな笑顔を浮かべる美咲。幾度となく向けられたその表情もメイクのせいなのか私服のせいなのか、はたまた休日デートと言うシチュエーションなのか、いつも以上に可愛らしく見える。 「そうなの?でも、メイク道具買いに行くだけならもっと近くても良いんじゃない?」 「紗月服も見たいんでしょ?安くておしゃれな服が売ってるお店が何個もあるから、紗月に似合う物探したいじゃない。」  その言葉のトーンはとても明るく晴れ晴れとしていて、美咲の方が楽しみにしていそうだ。   「私、こうして紗月がおしゃれに興味を持ってくれたことが本当に嬉しいの。だから、もっと楽しいなって思ってほしくて出来るだけのサポートがしたくて。」  そういいながら美咲はカバンからスマホを取り出し、画面を操作して紗月に見せる。  その画面には『初心者向け!☆絶対外さないオシャレテク☆』とタイトルが銘打たれたサイト。  色々な写真とポップな色使いの画面の文字を読もうとするが、その前に美咲は画面を入れ替える。  『自分に似合う色を見つけよう!』『初デートのために可愛い女の子になろう♡』『高校デビューでスタートダッシュ!垢抜け女子を目指してみよう♪』etc  どれもくるくるとした丸文字で、目に眩しい色使いのサイトが表示される。 「こういうの、沢山読んだから紗月のコーディネートはばっちりだよ、任せて。」  繋いでいない方の手を上に持ち上げ、グッジョブサインを作る。  美咲の為に可愛くなろうと努力をしているはずなのに、彼女に手取り足取り教えてもらっているのは如何なものなのかというところはあるけれど、美咲が自分のことを大切に思ってくれているのかも、なんてうぬぼれをしてしまう。  美咲の一番で居られるように何をすべきなのか、どうすればいいのかなんて未だに分かっていないし、多分分かることはずっと来ない。そして、これが全て自己満足であることも分かっていた。  しかし、そんな自己満足で美咲も喜んでくれるのであれば良いのかな、だとかもうそろそろいいんじゃないかな、なんて考えてしまうあたり楽観的な考え方そのものは変わっていないのだった。
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