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牢の中の独白
あれは、すべて、幻。朝霧と共に消え去るべき夢だったのです。
なんと、私は、欲深い事をしてしまったのでしょう。
実の父に幽閉されても仕方のない事を私は行ってしまったのです。
悔いても、悔いても、私には、薄闇の中でしか生きるしか道はありません。
心から敬愛していた、父と兄……。私が、悪魔の囁きに耳を貸したばかりに、お二人の顔へ、泥を塗ってしまったのです。
でも、私は、気付いてしまったのでした。
敬愛と、嘘吹いていた、自身の心の闇に。
兄のことを、愛してはいけない、
と、自制していた私の、本当の気持ちに。
私は、あの方のことを、心から愛していたのです──。
今更ながら、その気持ちをもてあまし、しかし、あの方へ冒してしまった罪を思うと、夜啼き鳥の様に泣くことしか出来ないのでした。
体と心は無惨にひきちぎられ、虚無となった生け贄は、悪魔へ捧げられるのをじっと待つ。知らぬ訳はありません、罪人は、謝肉祭の、余興として、その首をはねられることを。
ああ、あの謝肉祭の夜も。
恐ろしくも泣き叫ぶ生け贄の、美しく飛び散る鮮血に、私も、つい、酔ってしまいました。
気が付けば、皆と、生け贄の無惨な姿に見入っていたのです。
辺りでは、熱気と、狂乱が、混同し、無惨な姿の生け贄を堪能しながら、本能に従い、肉欲をむさぼり尽くす。邪心が舞い、歓喜の声を挙げていました。
確かに。私も、その渦の中で、恍惚にひたっていたのです。
勧められるがまま、複数の男達に、私の体は貪り尽くされたのでした。
ただ、ただ、頭の中は、真っ白になり、言葉にならない痛みと、戦いながらも、何故か、抗えない喜びにも似た刺激に溺れ──。
それが、罪と、わかっておりながらも、私の体は、その罪に逆らえなかった。いいえ、そうなるべく、動かされていたのかもしれません。
なぜ、エミーリア様には、想い人がおられないのです?いつまでも、物語の中の王子様に恋い焦がれていて、どうします?
確か、小さなお茶会の席で、サンジェルマン伯爵夫人は、私に言いました。
人生は、一度きりですよ。もう少し、お楽しみになれば宜しいのに。
ご存知かしら?謝肉祭の夜、下々の者は、何を行っているのか。
そして、私は、あの夜、その行いとやらを知ったのです。
謝肉祭の余興が行われる大広場は、人の群れが発する熱気で、蒸せかえっておりました。
あちらこちらで、沸きおこる、喘ぎ声──。
すぐ側では、私を先導するかのように、サンジェルマン夫人が、その身を男達に投げ出しています。
見知らぬ、複数の男達と交わる夫人は、恥ずかしがることなく官能が起こさせる、歓喜の声をあげておりました。
そして、その中には、あの方も……。仮面を着けていても、私には、ハッキリわかったのです。
罰を受けるのは、当然のこと。でも、なぜか、悔いてはおりません。
あの夜、あの方に、仮面越しではありますが、身を捧げる事が出来たのですから。
ええ、恋しいと、思えば思うほど、私は罪に押し潰されてしまいます。そうして、毎夜、手放さなければならない、あの方への思いを悔み、泣き崩れるのです。
──ああ、こんな話を、お聞きになったら、あなた様は、いえ、お父様は、驚きから、私と、話などなさらないでしょうね。
そうです。これが、私の、真実。毎夜、夜啼き鳥が嘆く理由なのです。
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