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「一緒に乗りますか?」
はぁ?
なんで、シェアしないといけないわけ?
それに、一緒にって、まるで、この人が先に停めたみたいに。
何、この人?
「いえ、乗りません。私が先に手を上げて……」「ひなこちゃんっ!」
声を荒らげそうになるのを抑えて、私のタクシーをシェアする気はないと文句を言っていたら、ロビーから芝田さんが小走りで大きな紙袋を抱えてきた。
「あ。」
「神田さん、来るならマーチャンダイズ、ついでに、サンプル持ってきてって」
あの野郎。
始めから自分で持っていけよ。
「了解です。すみません」
デザイナーの芝田さんに手間取らせた。
紙袋を受け取ると、眼の前のスーツの男に向き直る。
「とにかく、私のタクシーなんですけど?」
「あんた、ひなこっていうの?」
上質そうなスーツの割に、アンタ呼ばわり……。
歳だって、私と同じくらいに見えるし、髪型も整えられて、まともそう。
顔を見れば、キリッとした眉にくっきりした目鼻立ちで、意志の強そうなハンサム。
なのに、なんか、態度がすごく嫌な感じ……。
「え?そうですけど」
今、私の名前がひなこだろうが、花子だろうが、ピヨコだろうが、全然関係無いでしょう?
「小森ひなこ?」
「は?え。そうです、けど。あの、急ぎなんですけど、良いですか?」
「ああ、急いでるんだっけ。どうぞ」
なんだ、こいつ?
ごちゃごちゃ言っている間に運転手まで、何事かと出てきて、ドアを開けて待っていた。
男が譲るように一歩下がったのを見て、さっと紙袋を抱えて、車に乗り込んだ。
ー 何なのよ、ホント。
が、乗り込んだ瞬間に、間違えに気がついた。
「あっ」
高級感のある、いい艶のレザーシート。
やばい。
タクシーじゃない。
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