7249人が本棚に入れています
本棚に追加
「閉めますよ」
当たり前のように、男の隣に一緒に立っていたもうひとりの男性に言われて、足を引っ込めると、パタンとドアが閉まった。
ガチャっと車道側のドアが開いて、さっきの男が隣に乗り込んだ。
「すみません。間違え……」「俺の車だって、言っただろ?どこ行くの? まず送る」
有無を言わさぬ言い方。
ドアを閉めたもうひとりの男性が助手席に乗り込むと、席に戻った運転手が車を出した。
「え。あ、はい。ココです。栄枝産業」
手に持っていたメモを男に渡すと、「優」と助手席の男性に呼びかけて住所のメモを渡した。
優と呼ばれた人は、少し若い人で、部下か助手とかだろうか。ツーブロックの髪をしっかりセットして、メガネの感じがかなり賢そうだ。
状況がつかめないけれども、とにかく送ってくれるらしい。
「さて。小森ひなこ?」
運転手が栄枝産業へ運転し始めるとみると、隣の男がこっちをまじまじとみて、私の名前を確認した。
「ですけど、どなたですか?」
「加賀宮流翠」
カガミヤ リュウスイ
聞いた事ない。
そんな変わった名前、知り合いではないと思う。
「はあ。あの、私、お会いしたこと、あります?」
「あるよ」
当たり前だと言わんばかりに短くそう言って、私を見た。
え?
会ったこと、ある?
最初のコメントを投稿しよう!