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焦る私の腕を引っ張って、車に乗せると、運転手さんに「どこでもいいから、バッティングセンター、行って」と命令した。
バッティングセンター!?
「あ、はい。承知しました」
「流翠、一時の会議は?」
さっき、優と呼ばれていた、助手席の秘書っぽい人が、スケジュールを確認した。
「キャンセル」
「まじかよ……」
簡単にスケジュール変更を言いつけて、ここまで丁寧だった秘書さんが、嫌そうに一言漏らした。
秘書さんが、キャンセルの連絡を入れるのか携帯をいじりだすと間のスクリーンが上がった。
加賀宮という男は、シートに深く腰掛けると足を組んだ。
「なんなの!?バッティングセンターって、なに?」
もう連行されている状態で、敬語もいらないだろう。
「忘れたんだったら、思い出させてやるよ」
楽しそうに変な嫌味を言って、笑った。
私が野球をやったのは、小学校まで。
中学からはソフトボール部に入った。
小学校では、女の子が、男の子に混じってピッチャーをやっていると、地元ではもてはやされたこともあったけど、ソフトボール部ではまぁまぁという成績だった。それでも、結構夢中で部活を三年間頑張って、最後は部長もやった。
だけど、高校になる時、私はソフトを続けなかった。
だって、日焼けしてグラウンドを走り回っていた私、モテなかった。
こんがり茶色に焼けて、グラウンドで大声をあげて、部員を叱咤する部長の私は同級生の男の子には、ただの「怖い女」だった。
高校デビューさながら、高校では勉強に力を入れるという名目の基、部活に入らず、女の子らしく遊んだ。
メイクを覚えて、女子高生を満喫した。
彼氏もできた。
以後、野球なんぞ、一切、やっていない。
小学校の少年野球なんて、大昔の話。
なんの因果があって、この変なジャイアンのような男とバッティングセンターに行かなくてはいけないのだろう。
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