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緊急会議
問題が発覚してから2日後、極東支部では緊急会議が行われていた。ハンスが会議の冒頭で誠心誠意を込めて頭を下げ事情を説明した後、善後策の話し合いが行われた。
会議は今までにないほど紛糾した。
「クリスマスは子供にとって大事な日。何としてでも揃えないといけない」
「だが、このまま転売ヤーから購入を行えば予算を大幅に超えることになるぞ」
「ですけど、サンタ・ユナイテッドにとって一番大事なのは子供たちの笑顔と、胸躍る気持ちでしょう?」
「転売ヤーを利することをしろと?それでは我々も転売の片棒を担いでいることになるのではないか?」
「子供の幸せを考えたら清濁併せ呑むことも必要です」
「穢れた手段で手に入れたものを用いて笑顔を見ることはサンタ・ユナイテッドの精神に本当にかなうものなのか?」
子供たちにガッカリさせるとしても代わりの別プレゼントを贈るのか、それとも予算を大幅にオーバーしたとしても転売ヤーから購入して品数を揃えるのか。話し合いを重ねても結論は出ず議論は延々と平行線をたどり、ついには参加者が言葉を尽くし終えて沈黙の空間ができた。
「それで、アルティミットロボOnigoroshiをあと8000体確保するためにどうすればいいのじゃ?やはり多くの子どもに諦めてもらうしかないのかの?」
ニコラスの問いかけに対し、今まで俯いて目を瞑りながら考え込んでいたハンスが顔を上に向け、手を上げて口を開いた。
「諦めるのも、高く買うのも、良くないと思います」
「じゃあどうしろって言うんだよ」
「もとはといえばハンスさんのミスですよね?」
会議室が喧騒に包まれたところで、ハンスは右の手のひらを前へと出した。自分のミスは自分でカバーする。信念を持って出された右手だ。
「逆算をして考えませんか?」
「逆算じゃと?」
決意を秘めた瞳のハンスに向かってニコラスが問いかけた。
「はい。12000体を集められるとして、何が起こったら集められるのか?ここを起点に打開策を考えようと思っています」
「はぁ?」
半信半疑な……いや、三信七疑な視線がハンスに注がれる。
「そんなこと、ありえるわけがない」
上がった声に対しハンスは首を横に振った。
「低確率ですがいくつかは考えられます。例えば店舗が転売ヤーへの販売を全て拒否すること、転売ヤー達が一斉に予約を取りやめること、転売ヤー達が揃って玩具店にプラモデルを返品すること、そしてもう1つ。転売価格が大きく値崩れすることです」
会議に参加している他のサンタクロースから失笑が漏れた。対象物は社会現象にもなっている商品だ。ハンスが挙げた条件はいずれも実現可能性の乏しそうなものではある。
「確かに難しいかもしれません…………我々の力だけでは」
「我々の力だけでは?」
出席者から起こった声に対してハンスは頷き、ニコラスの方を向いた。
「支部長、お願いがあります。このプラモデルの発売元であるファンタジークリエイト社と話し合いをしてもらうことはできませんか?発売日は12月13日です。まだ2週間あります」
「話し合いって、何をじゃ?」
「これらを実現するための方策の話し合いです」
再び他のサンタ達の間でどよめきが起こった。そんな話し合い成立するわけない、時間の無駄だなどと批判の言葉をストレートに投げてくる者も少なくなかった。
「確かに批判はもっともです」
ハンスは声を張り上げた。
「ですが考えてもみてください。こういうおもちゃの会社はファンがあってこそ成り立ちます。プラモデルを本当に欲しがっている人にちゃんと届いてほしいという思い、不正な形で本当のファンが泣くような事態になって欲しくないという願いは、私達サンタクロースの信条と一緒なのではないでしょうか?」
ハンスは腹の底から絞り出すようにして訴える。徐々に、ハンスの顔を真剣な眼差しで見つめるサンタの数が増え出した。
「支部長。お願いです。ファンタジークリエイト社と話をつけてくださいませんか?」
ハンスはニコラスを真正面に見据え、訴えた。
「そうじゃな。どう転ぶかは分からぬが、話はしてみよう。では今日の会議はお開きじゃ」
ニコラスがそう告げると、出席者は皆各々の仕事へと戻っていった。
「ありがとうございます。支部長」
「礼の言葉は事がひと段落するまで取っておくのじゃ。これからが本番じゃからの」
ニコラスは依然として厳しい面持ちでそう答えた。
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