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「はい。ではアルティミットロボOnigoroshiの発売を始めます」
女性店員がドラメガを片手に大声で案内を響かせる。一刻も早く手に入れまいとする行列が一気に動き出したそのときだった。
「始めますが、皆様にお断りをさせて頂きます」
ひときわ大きな声を耳にして、行列の動きが止まった。
「今回のアルティミットロボOnigoroshiの発売にあたって、皆様にはA,B,Cのコースのいずれかを選んで頂き実行して頂きます。これに同意いただけないお客様には残念ながら今回はお売りできません」
女性店員の声を受けて、はっぴを身に纏った別の男性店員がプラカードを掲げた。
「Aコース 部品が並ぶ板からつなぎ目を一箇所切断する」
「Bコース 箱のフタの裏にトナカイの足跡スタンプを押す※サンタクロースから直筆メッセージのおまけつき」
「Cコース A,Bコースの中身を両方行う」
プラカードにはそのように書かれていた。
「なお、今回はサプライズ企画として本物のサンタクロースさんとトナカイさんに来て頂いています。いずれかのコースでお買い上げ頂いた皆様にはサンタさんとトナカイさんとのスリーショットチェキを無料で撮影していただけます」
プラカードが掲げられると同時に、追加のアナウンスがなされた。ハンスは大きく列に向かって手を振り、サンタ帽をかぶって赤白緑のリースを首からかけたディーンは大人しくハンスの横でその列を見つめていた。
「おい、あのトナカイ本物やで!」
「えっ?ホンマか?」
「そやで!トナカイは本物やで!」
「サンタも本物が来てるんか?」
「サンタはさすがにニセモノちゃうか?今日は24日ちゃうし」
「せやな。でもホンモノのトナカイなんてめったに見れへんで!」
「触らせてくれるんかな?」
「獄門さんのプラモ買えてしかもトナカイも間近で見れるなんてホンマにラッキーやで」
列に並んでいた小学生達は一気にざわつき始めた。その一方で、あれほどひしめき合っていた長蛇の列には異変が起き始めていた。
「何だよそれ……」
などと不満の声を漏らす者、あからさまに不機嫌な顔色を見せる者、路上に唾を吐き捨てたりする者が現れた。トナカイに群がる子供達、嬉々とした表情でニッパーを握る客、蓋の裏に押されたトナカイの足型を興味深そうに眺める男性などが沢山いる一方で、列から抜けて店をあとにしていく者がひとり、またひとりと現れ、残った客は一気に半分近くとなった。
ハンスは満面の笑顔を崩さぬまま写真撮影に応じ、ペンを走らせ、客とひっきりなしに握手をかわした。一方のディーンも写真撮影の要請に適宜こたえつつ、真っ赤なインクがたっぷり染み込んだ大型のスタンプ台に何度も足を載せ、足跡スタンプをひっきりなしに押していった。
販売は大盛況に終わり、そして作戦は大成功に終わった。
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