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ミッション完了
「支部長!やりました!」
次の日、ハンスは爽やかな面持ちでニコラスへ事の顛末を報告しに行った。
「うむ。これで12000体、クリスマスに届けることができるぞ」
ニコラスも安堵の表情を浮かべつつそう答える。
「しかし、よく今回の作戦を思いついたの」
「実はオークションサイトにヒントがあったんですよ」
ハンスはそう語った。
「アルティミットロボOnigoroshi未使用未開封 12月13日発送 35000円」
サイトの出品欄にはこのように書かれていた。
――未使用未開封、ということは……開封されていて、そして使われた痕跡のある状態にしてしまえば彼らは買わないのでは?
ハンスはそう仮説を立てたのだ。封がなされておらず使用した跡がある製品は新品ではなくもはや中古品。「転売用の商品」としての価値は下落する可能性が極めて高い。
製品の機能自体にはダメージを一切与えぬまま開封後、使用済みという状況をどう作るか?そこで考えついたのがつなぎ目にニッパーの切れ目を一部入れることと、箱の蓋の裏にトナカイの足跡スタンプを押すことだった。こうすれば確実に開封がなされるし、箱や部品に変化が施されている以上未使用品と言って販売することもできなくなってしまうのだ。その一方でプラモデル自体の性能が落ちることはない。プラモデルが組み立ててナンボな玩具である以上、つなぎ目はいずれ切られてしまうものだ。アルティメットロボOnigoroshiを本当に欲しがっているお客さんにも迷惑がかかる可能性は低いと考えられた。
おたひろばでのできごとはSNSでも大々的に取り上げられた。
「おたひろば、ブラボー!」
「転売撃退大成功!転売ヤーざまぁ」
「トナカイ初めて生で見たけど、可愛かった」
「サンタはさすがに偽物だと思うけど、すごく雰囲気あったよ」
といった、好意的なコメントが圧倒的多数を占めており、一夜明けた今も拡散が続けられている。
「さぁ、配達準備も大詰めじゃの。色々あって遅れは取ったが、これから巻き返しじゃ」
「はい。ですが……」
「どうしたのじゃ?」
「私、そんなに偽物っぽく見えますか?」
ハンスの素朴な疑問を受け、ニコラスは押し黙った。そこにはただただ暖炉の薪が燃える音だけが響いていた。
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