別れても好きな人

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別れても好きな人

 大学の学食。  ミチと恵子は昼食を食べながらおしゃべりに夢中。おしゃべりの内容、話題はミチの元彼、幸司のことだった。 「はん。幸司なんか。あんな奴あんな奴」ミチは毒づく。「ちょっと格好良くてちょっとサッカーができるからって。『もう、会うのこれきりにしよう』だなんて」  恵子はひたすらうなずくばかり。愚痴を聞くのも楽じゃない。  ミチはつづける。 「あんな男、ふられてせいせいしたわ。なによ、あいつなんて服のセンス悪くて、アパート暮らしで、車も持ってなくて」 「そうだよねえ。そうだ」  怒り心頭のミチに反論する気概は恵子にはない。 「キモい。ほんの少ーし顔がいいからって。はん。うぬぼれんじゃないわよ」  恵子は黙って聞くのみ。ミチの悪態はつづく。 「私が誕生日にもらったの、なにかわかる?ブローチだよ。ブローチ。おまえは昭和のおっさんか。しかも安物。うれしくもなんともなかったわ。むかつく。あいつが生きていると思うだけで腹が立ってくるわ」  ひきつりながら笑う恵子。まあ、仕方がない。ふられたばかりだし、幸司はハイレベルの男だったから、少しは悪口言って幸司の水準を下げたくなる気持ちもわかる。  恵子は質問する。 「もう、全然好きじゃないの?」 「笑わせないでよ。はははは」うつろな笑い。「あんなのにお熱上げてた自分が恥ずかしいよ。冷静に見れば、あの程度の男なんかごろごろ。ま、一時の気の迷いだったのよ。もうなんとも思ってないよ。幸司なんて、幸司なんて」  ミチは割り箸をばきりと二つ折りにした。  すると、学食の通路の向こう側に、話題の張本人、幸司の姿を恵子は認めた。 「あ。うわさをすればなんとやらよ。幸司くんだ」  幸司は通路をこちらへやってくる。  ミチはカバンからクシを取り出し、髪をとかしだした。
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