4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
別れても好きな人
大学の学食。
ミチと恵子は昼食を食べながらおしゃべりに夢中。おしゃべりの内容、話題はミチの元彼、幸司のことだった。
「はん。幸司なんか。あんな奴あんな奴」ミチは毒づく。「ちょっと格好良くてちょっとサッカーができるからって。『もう、会うのこれきりにしよう』だなんて」
恵子はひたすらうなずくばかり。愚痴を聞くのも楽じゃない。
ミチはつづける。
「あんな男、ふられてせいせいしたわ。なによ、あいつなんて服のセンス悪くて、アパート暮らしで、車も持ってなくて」
「そうだよねえ。そうだ」
怒り心頭のミチに反論する気概は恵子にはない。
「キモい。ほんの少ーし顔がいいからって。はん。うぬぼれんじゃないわよ」
恵子は黙って聞くのみ。ミチの悪態はつづく。
「私が誕生日にもらったの、なにかわかる?ブローチだよ。ブローチ。おまえは昭和のおっさんか。しかも安物。うれしくもなんともなかったわ。むかつく。あいつが生きていると思うだけで腹が立ってくるわ」
ひきつりながら笑う恵子。まあ、仕方がない。ふられたばかりだし、幸司はハイレベルの男だったから、少しは悪口言って幸司の水準を下げたくなる気持ちもわかる。
恵子は質問する。
「もう、全然好きじゃないの?」
「笑わせないでよ。はははは」うつろな笑い。「あんなのにお熱上げてた自分が恥ずかしいよ。冷静に見れば、あの程度の男なんかごろごろ。ま、一時の気の迷いだったのよ。もうなんとも思ってないよ。幸司なんて、幸司なんて」
ミチは割り箸をばきりと二つ折りにした。
すると、学食の通路の向こう側に、話題の張本人、幸司の姿を恵子は認めた。
「あ。うわさをすればなんとやらよ。幸司くんだ」
幸司は通路をこちらへやってくる。
ミチはカバンからクシを取り出し、髪をとかしだした。
最初のコメントを投稿しよう!