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死なばもろとも
「かつて鬼の子を身籠った若い娘が、日に日に大きくなる腹に怯えて自ら命を経った。母の腹に入ったまま、鬼の子もまた命を落とした。
その年、村は土砂崩れに見舞われたくさんの村人が生き埋めになった」
婆様の昔語りは続く。
「生れ落ちた鬼の子には角が生えとる。あるとき村人はこれを恐れて鬼の子を放置した。乳を飲ませてもらえなんだ鬼の子は飢えて死んだ。その年、村は大飢饉に襲われ村人の半分が飢餓に喘ぎながら死んでいったそうな」
婆様はどっこいしょと立ち上がりながら言った。
「鬼の子を死なせれば、同じ死因で何十人と村人が死ぬ。それ故、鬼の子は死なせてはならん。しかし鬼の力は恐ろしい。強く大きく育てれば、村を襲わぬとも限りゃせん。
それ故鬼の子は、死の淵で生かし続けにゃならんのさ」
多々羅が口を開こうとしたその時、麓のほうからかすかに声が聞こえてきた。
「おぅい、婆様! 多江が産気づいた。はよう来てくれ!」
多々羅の耳は、ヒュッと息を呑む婆様の声を拾った。
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