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多江とヨシ
産屋に入ると湿度の高い空気が体にまとわりつく。
薄暗い部屋の中に蠢く三つの影を感じつつ、多々羅はそっと壁に沿って移動し部屋の角でうずくまった。
苦しげな女のうめき声が断続的に聞こえる。
「多江、多江、しっかりせい!」
多江の母親、ヨシの声が轟く。
多々羅は親一人子一人の多江とヨシに思いを馳せた。
大人しく誰にでも優しい多江は、いつも薄黄色のモヤを放っていた。
普段『親なし子』と蔑まれる多々羅にも、別け隔てなく接してくれた。
その母親ヨシもまた穏やかな人柄で、よく山菜汁をこしらえては婆様と多々羅にも振る舞ってくれた。
二人から感じるモヤは今、恐怖と悲しみの青紫。痛みに金切り声を上げる多江の名を、ヨシは泣きながら呼び続けている。
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