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ルーベスタさんは不思議でならないと言った様子でわたしの顔を見た。
「わたしがお金持ちの娘で美人だから結婚したいのですよね」
「……そ、そんなことはないです。でも、サーリーさんには美しいドレスが似合うと思いますよ」
ルーベスタさんはわたしの着ている服をチラッと見て言った。
「わたしは、ドレスよりも動きやすいこの服が好きなんです」
「……サーリーさんどうかしてますよ。そんな薄汚い服が好きだなんて目を覚ましてください」
そのルーベスタさんの言葉にわたしはムカッとした。マルコーリさんが知り合いの方から借りてくれた大切な服なのにだ。
それと目を覚ましてくださいと言う言葉にわたしは何か大切なことを思い出しそうになった。
誰かがわたしを呼んでいる。そう誰かがわたしを呼んでいる。
『砂織ちゃん、目を覚まして』
この声はわたしのよく知っている道也君の声だ。道也君……。わたしは、手を伸ばした。だけど、道也君の手を掴むことができない。
「砂織、頭を抱えてどうしましたか?」
マルコーリさんが心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
「わたしのことを道也君が呼んでいるんです。日本に帰りたいです」
「砂織、帰れるといいですね」
「はい、なんだか帰れそうな気がします」
そう言ったわたしの手を誰かが握った。
この温かい手は……。
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