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わたしはふかふかの天蓋ベッドに寝転び目を瞑った。このまま眠り目を覚ますと春川砂織に戻っているといいな。
この夢だかなんだか分からない世界に来てみて、わたし春川砂織は意外と幸せだったんだなということに気がついた。
わたし春川砂織は喫茶店で働く二十五歳。紅茶とケーキが好きな平凡な女性だ。夢は何ですか? と聞かれるとうーんと考え、平凡でもいいからお金に困らず紅茶の香りに包まれて暮らしたいなんて答える夢のない女性だった。
そんなわたしがどうしてこんなことになってしまったのだろうか。
分からない、分からない。けれど、何かを忘れているようなそんな気がする。
何だろうか? 頭の中にモヤがかかったようなこの感覚は……。
恐ろしくて思い出したくない。ううん、思い出したい、思い出したくない。わたしの頭の中はぐちゃぐちゃになってきた。
もう何も考えたくないので眠ってしまおうと思ったその時。
ドンドンとドアが叩かれた。
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